アイラブ桐生 第三章
レイコが先に反応をしました
時刻は、午後3時を少し過ぎたばかりです。
炎天下を避けて、木立ちのある木蔭まで静かに車を移動をさせてから
一服しょうということでドアを開けました。
小さな入り江を見降ろしながらドアを開け放して
レイコが煙草に火を付けました。
日本海側で、北陸の漁村や寒村の風景といえば、
おそらくこんな景色のことを指すのだろうと思いました。
これといった特別のものは何ひとつとして見当たらないというのに、
妙に心が落ち着く、そんな光景でした。
右手には日本海の外洋がどこまでも大きく
三角の白い波とうねりを見せながら、鷹揚に広がっていました。
左手側には、低く続く丘陵地帯が幾重にも重なったまま、
まだその先へと延々と続いていく様子が見て取れます。
ちょうどその真ん中の空間を、
眼下に見える小さな入り江に向かって、真夏の太陽に照り返された
あまりにも細く頼りない道が、少しずつ、ゆるやかに折れ曲がりながら
降りて行くのが見えました。
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平