アイラブ桐生 第三章
小高く切り立った丘がひとつ、
前方に壁のように立ちふさがってきました。
海岸線から離れて、山手側に向かい始めた道路は麓を半周しながら
ゆるやかに頂点を目指して登り始めました。
以外に距離があり、頂点付近で振り向いたときには
通り過ぎた景色がまるで箱庭のように眼下に広がりました。
「けっこう小高い丘だったわね、
見た目よりもあったもの。
まったく手こずらせて・・・
ねぇ、
見て、あれっ!。」
登りきったとたんに顔を前に向け
眼下へと目線を落としたレイコが突然、大きな歓声をあげました。
そこには、まるで絵にでも書いたような、
北陸らしいとも表現できる、ごくありきたりの漁村の風景が
ものの見事に、かつ静かに佇んでいます。
ささやかすぎるほどの大きさを持った、
青い入り江を中心に、人一人が歩くのがやっとと思われるほどの
細い堤防が、優しくいたわるように、ほんのわずかな隙間だけを残して、
両岸から中心付近にまで伸びていました。
波一つたっていない湾内は、実に静かに輝いていて、
真っ白い砂浜には、10隻ほどの小舟が引き上げられています。
それでいながら、人っ子一人、人の姿が見えません。
「ちょっと・・ねぇ、 素敵!。
ネェ、停めて。」
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平