アイラブ桐生 第三章
「おいっ」と振り返ると、
「あ~、ついに、ばれちゃった。
ついでに渡してくださいって、M子から頼まれてきたの。
実は、あんたの誕生日に自分から渡したかったんだって・・
あの日のプレゼントのお返しに。
あんたの愛読している「青春の門」が、
文庫本で、やっと全部揃ったので、あれから5年間も待たせてしまったけど、
レイコから渡してくださいって。
そう言われて・・・
断るわる訳にもいかず、
はいって返事をして、預かってきちゃった。」
(やっぱり全部、筒抜けだ・・・。)
紺碧に輝く日本海を右に見て、
何処までも南下していく国道線は、実に快適そのものでした。
朝早いことも有りますが、
表日本では考えられないほど、人家も見えなければ
反対車線を走る対向車にも、めったには行き会いません。
のんびりとしていて、鈍く照り返しを見せはじめたアスファルトの一本の路が、
海岸の景色を見え隠れさせつつ南西方向へ向かって
どこまでも単調に伸びて行きました。
まばらな集落が接近をしても、
民家は、あっというまに車窓を通りすぎてしまいます。
また山と斜面だけの景色に変わり、右側には日本海の青い海がひろがりました。
左手から山を駆け下りてきた急な斜面は、いくつカーブを曲がっても
そのまま突きささる角度を保って海へと落ち込んでいる
同じ景色ばかりを繰り返します。
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平