アイラブ桐生 第三章
「群馬からです!」
そう元気に答えて、嬉しそうな顔をしているレイコの横で、
「輪島の朝市というのは、
実は、女たち同士の、暮らしをかけた熾烈なたたかいなのよ。
男や子供たちを養うために、女は朝早くから働きに出掛けて来て
こうして朝市で物を売るの。、
いくら旨い事言われても、言い値で買っては駄目なのよ。
此処での流儀は、”値切り”なの。
値段なんて交渉次第でどうにでもなるものよ
朝からそんなかけひきを楽しむことも、また輪島流の朝市なのよ。
気をつけなさい・・・
ここのおばあちゃんは、とっても商売上手だからね。
あら・・・そういえば、
あんた、よく見ると、別嬪だねぇ。」
と、またまた元気に笑いました。
ようやく到着した輪島朝市の散策は、
わずか30分ほどで終わってしまいました。
採れたての野菜や魚介類を売るこの朝市は、観光用というよりも
日々の暮らしの買い物を賄う、路上で繰り広げられる小さな日常市そのものです。
レイコは先ほどの輪島塗りの女将さんの所で、しばらく話しこんでから
何か小物を買ったようでした。
はるばる12時間以上もかけて走ってきたというのに
わずか30分ほどの滞在では短かすぎるような気もしたが、どうする?と聞くと
せっかくだから、金沢まで戻ろうということになりました。
戻る? 金沢は群馬への帰り道とは
まったくの逆方向です。
それはまだ、さらに先へ進むという意味でした。
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平