アイラブ桐生 第三章
手拭いでほっかぶりをした、しわだらけのおばあちゃんが
目を細めながら能登なまりそのままの方言で、
しきりと何かを喋っていました。
こんな風な光景と雰囲気をどこかで見た覚えがあります、
どこだろうと考えていたら・・
同級生で、芸術家志望の西口くんの顔がフイに頭の中に現れました。
・・・そうだ、あいつが好んで書いた渋い色調の画の中にも、
たしか、こんな婆さんたちが登場していました。
うしろから、レイコに頭をこずかれました。
「また、遠くをみている!」
振り返った私の耳もとで、
「おにいさんはどこから来たのと 聞いてるん・・だって。」
輪島塗りを陳列しているお店の前に立つ
人の良さそうな女将さんの姿を指さしながらレイコがそう、ささやきました。
その女将さんが目ざとく近よってきて
背後から、私とレイコの肩に手を置きました。
「とても綺麗で可愛いいお嫁さんだって、褒めているのよ。」
ポンポンと、私とレイコの肩を軽く交互に叩き、
にっこりとほほ笑んでから、また声を出して笑いはじめます。
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平