アイラブ桐生 第三章
(11)第三章 輪島から兼六園へ(その3)前半
のどの渇きで目が覚めました。
レイコの布団は、すでに綺麗に片づけられています。
布団の上には、未使用かと思われるほど丁寧にたたまれた浴衣が
ちょこんと置いてありました。
昨日の夜から大きく開け放されていた障子は、今朝は
半分ほどになっていました。
真夏の夜明けだというのに浜辺に近い民宿は
建物全体を、涼しい潮風が通りぬけていきます。
眠気覚ましも兼ねて、その海岸へ向かいはじめました。
すでに日は登り、熱くなりそうな気配を見せる夜明けの空を見上げながら、
堤防の上を歩いていると「おはよう」という元気な声とともに
レイコと二人の女の子が、松林の中から現れました。
妹のほうは、レイコの首筋にしっかりとかじりついたまま、
頬まで寄せて、満面の笑みで抱っこをされていました。
上の子は私の顔を見た瞬間に、いち早く恥ずかしそうに、レイコの腰に
顔だけ残して隠れてしまいます。
まるでお母さんそのものだな、と思いながら
「おはよう」ともう一度声をかけたらと、上の子がそっと出て来て、
摘んできたばかりと思われる、浜辺の花をくれました。
結婚すると毎朝がこんな感じになるのかな・・それも悪くないなどと、
寝ぼけた頭で、ふと考えました。
作品名:アイラブ桐生 第三章 作家名:落合順平