アイラブ桐生 第二章
アイ・ラブ桐生 第一部
(8) 第二章 八木節祭りの夜(後)
M子の家は山の手でした。
赤い煉瓦作りで、三角の屋根が五連につらなる織物工場を目印に、
そのまま山のほうへ回り込んでいくと、
前方に静かな住宅街が現れます。
この一角に、初恋の相手、M子の自宅はありました。
車は、少し離れたところに止めました。
遠くから、いくつかの八木節のお囃子が、
風に乗りながら、とぎれとぎれに響いています。
やがて、本町通りの櫓と思われる、ひときわ高い乾いた樽の音色が
ここまではっきりと聞こえてくるようになりました。
まもなく八木節の共演会が始まることを市内に知らせる
恒例の合図でした。
「じゃぁ、もう8時は過ぎたんだ・・」
この当時の八木節競演会には、
市内を中心に近隣からも、多数の腕自慢たちがたくさん参加をしました。
八木節の音頭取りたちは、この晴れの舞台に立つために
一年間休むことなく、その独特の節回しと喉を鍛え上げてくるのです。
年に一度だけある、この競演会の舞台に立つことが、
八木節の音頭取りと、その踊り手たちに共通している
幼いころからの夢でした。
作品名:アイラブ桐生 第二章 作家名:落合順平