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アイラブ桐生 第二章

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 やはり気になってチラリと振り返った時には、
レイコの姿が、視界から消えていました。
どうせお手洗いか何かだろう、くらいに受け止めていたら、
いきなり背中越しに現れて、あっと思う間もなく、かすめ取るように
私のグラスを横どりしてしまいました。



おい、
それはウイスキーのダブルだぞ・・

 「おかわり!」

 そいつを、一気にあおったあげく、
空になったグラスを、ドン!と勢いよくカウンターに叩き置きました。
何杯飲んで構わないけれどこれ以上、訳も解らずに、
荒れるのだけは勘弁してくれと頼み込むと、
案外、素直にレイコが頷きました。

 唇に着いたアルコールを、
私から奪い取ったおしぼりで乱暴にふき取ってから、
いままでにないほどの、低い声で、
「そうするから、ひとつだけ、頼みを聞いて」とつぶやき始めました。
少しだけ、 嫌な予感はしたのですが・・・
やはり、

 「今から、海が見たい」と言いだしました。

 「は!?」

 今は桐生中がうかれきっている、祭りの真最中です。
これから本町通りでは、今年の一番を決める八木節競演会も、
始まろうとしている、まさにその時刻でした。
しかしレイコは、そんなことには気にもとめず、
早くこんな浴衣を脱ぎすてて、祭りも嫌いになったから町からは
一刻も早く抜け出したいと、即座に言い切ってしまいました。

「誰もいない海が見たいから連れて行け。」
と、その一点張りを繰り返します。




 それはいいけれど、
手元に着替えさえもないままでは、どうすることもできないだろうと、切り返したら
「親友のM子に頼むから、そんなことなら、即、大丈夫。」
と電話をかけるために、よろめきながら立ちあがりました。
(M子は、私の初恋のお相手でした)


 それ以上の反論などを、考えつく暇はありませんでした。
電話を終えたレイコは、席へ戻って来たとたんに、人の腕をつかみ、
話は全てついたから、さあ、心おきなく出掛けましょう!と、
大いにはしゃぎだして、しまいました。


(8)へつづく

作品名:アイラブ桐生 第二章 作家名:落合順平