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謎解きはライブのまえで

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「デパートの屋上でカール・グスタフを町村に打ち込んだ張本人は佐藤ですね」と浜省は滔々と述べた。「自衛隊イラク派遣部隊の隊長をした経験があります。カール・グスタフを飄々と扱える人物は、今の時点での登場人物においては、彼しかいません」
「カール・グスタフを扱った人間が誰か謎でしたが、今となってはそう考えるのが妥当でしょう」と警視はニューナンブをホルスターにしまいながら言った。佐藤を射殺したのは田母神だが、田母神を射殺したのはこの警視らしい。
「田母神は食中毒か何かで安倍晋三みたいにぽんぽんを下したせいでトイレに駆け込んだため偶然命拾いしたのか、それとも意図的に爆発現場から離れることで身の安全を確保したのでしょう」と浜省はロジックの組み換えを行いながら話した。「どっちにしろ、爆発の直接的原因はあきらかに佐藤が打ち込んだ榴弾でしょう。俺の予想は外れたようで、どうやら田母神は実行犯ではないようです」
「多分、後者でしょう」と警視は言った。「田母神は自分の命を狙われて死んだかもしれないという恐怖にかられることなく、ボディーガードも付けずに淡々と振舞っていました。護衛をつけましょうか、と田母神に提案したにも関わらず、『元自衛官に護衛は不要だよ』と呵呵と笑い突っぱねていました」
「おそらく、田母神は自分が犯人の一味だという自覚があったのでしょうね。黒幕のひとりと会うとき警察の護衛が邪魔になりますからね。だから護衛をつけることをかたくなに拒否した」と浜省は警視の言に追補した。「偶然爆発現場を離れて命拾いをしたということが前提だと、誰か得体のしれない連中から自分が次に狙われるに違いないという恐怖で警察の護衛に頼ってもおかしくありません。そこは田母神の要望と矛盾します。田母神は後暗いところを持っていたから、警察の世話になれない事情があったわけです」
 大分県警の鑑識がバーに到着した。紺の作業服を着た鑑識官が二体の死体の写真を撮影したり、凶器であるナイフやオートマチックの指紋を採取し始めていた。
「ここからは完全な創作となりますが」と警視は言った。「佐藤は、目撃者として浜田さんの存在を利用した途端、一転浜田さんのことが逆に邪魔になったのでしょう。だから浜田さんを尾行して自分が実行犯であることを知っている田母神ともども一緒に始末しようとした」
「でも、田母神は馬鹿じゃない」と浜省は佐藤の死体を顎で指して続けた。「田母神は護身のため銃を用意していた。そしてそれを有効に使用した。あのようにするために」
「反面、田母神自身も、我々に射殺されたのは本人の企図とは異なっていたでしょうがね」と警視は呟いた。
「結局、彼らが町村を殺した理由がわかりませんでした」と浜省は真相を知るのは無駄だとわかりながらも話を振った。「少なくとも、彼ら二人で企んだわけではないでしょうな。黒幕は必ずいるでしょうが……」
「田母神と佐藤の情報を洗ったらおそらく誰が黒幕か想像が付くでしょうが」と警視は言った。「証拠はないだろうし、法廷に引きずりだすことは不可能でしょう」
「町村の存在が邪魔だった特定の政治勢力でしょう」と浜省は言った。「証拠は全くありませんがね。ふたりとも死んでしまいましたから」
 警視は何も言わずただ首肯したのみだった。
「謎は謎のまま終幕を迎えたわけですね」と浜省は言うとカウンターに置かれた飲みかけのギムレットを一気に飲み干して言った。「謎解きは永遠に無理のようです」
 浜省は様子を見に戻ってきたバーテンダーに言った。「こちらにもギムレットを一杯」
 バーテンダーがグラスに注いたギムレットを警視は受け取ると、浜省に向けて乾杯のポーズを取った。そしてヤケ酒のつもりなのか、浜省よりも豪快に飲み干した。

<引用>
>民主党議員「首相、即刻退陣を」意見書提出(7/13読売新聞)
> 民主党の吉良州司、長島昭久両衆院議員らは13日、首相官邸に仙谷由人官房副長官を訪ね、菅首相が進めるエネルギー政策では電力危機を招く恐れがあるなどとして、首相の即時退陣を求める意見書を提出した。
> 意見書は、退陣を求める理由として、九州電力玄海原子力発電所の再稼働を巡る混乱などを挙げ、「菅内閣の機能は完全に崩壊した。菅首相のもとでの被災地復旧・復興、原発事故の早期収束、国全体の復興は実現不可能だ」と首相の対応を批判した。意見書には、同党の若手衆参両院議員11人が名を連ねた。
> 吉良氏らは首相との面会を求めたが、首相は応じなかった。

>「首相は即時辞任を」民主議員31人が決議(7/16朝日新聞)
> 民主党の中堅・若手議員31人が15日、菅直人首相の即時辞任を求めて国会内で集会を開いた。集会では「菅内閣の機能は完全に崩壊した」などとする辞任要求決議を採択。さらに賛同者の署名を募り、来週にも首相に提出する。
> この日の集会には小沢一郎元代表に近い議員のほか、仙谷由人官房副長官に近い吉良州司元外務政務官や前原誠司前外相のグループの田村謙治前内閣府政務官。また、樽床伸二元国対委員長のグループの議員も出席し、即時辞任論が各グループに広がりつつある。
> 集会では首相が兼務する党代表職を多数決で解任する規約改正を行うため、両院議員総会の開催を求める意見も出た。呼びかけ人の長島昭久元防衛政務官は「賛同者を募って数で辞任のプレッシャーをかけたい」と記者団に語った。

<民主党>
 前原誠司民主党新代表と仙谷由人副代表にとって、右派評論家である田母神は町村をおびき寄せる餌に過ぎなかった。石破にそそのかされた田母神が町村を大分に遠征させ、そこに石破にそそのかされた佐藤が無反動砲でふたりとも街宣車ごと吹き飛ばす予定だった。そのために、石破を通じて佐藤にあらかじめ参議院大分選挙区の代議士を事故に見せかけて殺害させ、補欠選に持ち込ませで、町村と田母神を応援演説の弁士として送り込む手筈を整えたのだ。
 吉良州司衆議院議員は民主党王国である大分1区選出なので、大分市の地理に詳しく、町村・田母神暗殺計画の細部を練ってもらった。長島昭久衆議院議員と共に、仙谷が企んだ菅直人元首相を引きずり下ろす行動を起こしたほど仙谷と親密である。吉良は佐藤がデパートからうまく逃亡するルートを計算し、警察や警備員からの監視の目から逃れる手助けをした。陽動として、小沢の私設秘書が持っていた民主党バッジを置いていくように計画したのも吉良だ。吉良は仙谷と懇意とはいえ、一応小沢グループの議員なので、小沢の秘書の指紋がついたバッジを入手するのは容易だった。
 浜田省吾ご一行がデパートの屋上に来る時間を見計らい、あえて犯行現場を目撃させた。浜省のみ生かしておいて目撃者として警察に証言させ、民主党バッジを早く発見させるためである。民主党バッジの持ち主である私設秘書には無論、富士の樹海の中に行方不明になってもらった。
 ただ、田母神がトイレに行って命拾いしたことが誤算だった。地元民とはいえ、田母神の些細な行動を読めるわけではないようだ。
作品名:謎解きはライブのまえで 作家名:牧高城