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謎解きはライブのまえで

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「創作であることは重々承知のうえですが」と浜省は自分の分のギムレットで口の中を湿らせたのち続けた。「あくまで自衛隊が調査した結果に過ぎません。仮に、自衛隊を退官した自民党政治家や自衛隊から更迭された保守派の政治活動家なら、密かに自衛隊に内通し調査結果をねじ曲げることは不可能ではありますまい。自衛隊には自民党シンパや自民党原理主義者が大勢居ますからね」
「私や佐藤正久君のことをいっているのでしょうか?」と田母神は余裕な笑みを崩さず言った。
「自衛隊だけを悪者にするつもりはありません」と浜省は答えた。「これは自衛隊のみの犯行ではないでしょう。警察も関係しているに違いありません。警察はシンプルかつ強引な理屈で民主党小沢一郎関係者の仕業だと断定し、事件を終幕させようとしています。そして、民主党もグルに違いありません。民主党関係者の特定人物に罪を着せようと指紋のついた民主党バッジをデパートの屋上に落としたのもこれで理解できます。民主党バッジには小沢一郎関係者の指紋が付いていました。民主党関係者しか特定人物の民主党バッジを盗み出すことは難しいと思われますからね。先の衆院選で勢力を大幅に減らした今の小沢相手なら、そのダーティーイメージからしてどんないちゃもんをつけても世間は深く考えずとも納得するでしょう。もしかして仙谷由人氏による消滅寸前の小沢グループ潰しの最後の一撃でしょうか? 無論、民主党と自衛隊と警察が演じる茶番の黒幕は自民党が一番深く関与しているに違いありません。民主党だけでは自衛隊や警察をうまくコントロールすることはできないでしょうから」
「話が大きくなってきたなあ」と田母神はテーブルの上に置かれたオートマチックを手に取り銃口を浜省に向けて呟いた。
 田母神の握る銃の引き金に指がかけられているのを見た浜省は、伏せて身を守る暇もなかったので、サングラスの奥に煌く目を閉じ死を覚悟した。
 田母神はニヤリと笑うと引き金を引いた。オートマチックが火を吹き、太い爆竹が弾けたような渇いた破裂音がバーに響いた。

<自民党>
 石破茂は民主党と連立を組まなければ民主党単独政権以上の混乱を国政に招き、日本国のさらなる衰退を招くことを憂慮した。民主党政権だって全て悪くはなかったと投票者の半分程度は思っているからこそ、民主党160議席、自民党160議席という選挙結果だったのだ。
 なのに町村信孝は頑として自民党一党支配の夢を抱き続け、「自民党にあらざる者、人間にあらず」という選民思想的な何かに固執している。
 インターネット上の自民党支持者は自民党を賛美するに飽きたらず、対立する敵対政党を口汚い言葉で罵り続け、その汚い口で安倍晋三の理想である「”美しい”日本」を実現しようと本気で思っている。言い換えれば「潔癖症のゴキブリ」であろう。矛盾の塊である。
 政敵を口汚く罵ることは決して美しい日本を創り上げることに繋がらないことを彼らは理解していないし、そもそも理解できる知能がない。願わくば、日本よりも先に彼らネット右翼の言葉使いから美しくなるよう石破は本気で願っているのだった。
 町村にしろ西田昌司や稲田朋美率いるノイズメーカー議員にしろネット右翼にせよ、自民党原理主義に固執し、自民党以外の政党を全否定したいのであれば、日本に自民党一党独裁体制を構築すればいいではないかと思ってしまう。そうすれば彼らが死ぬほど嫌いな中国共産党や北朝鮮と対等の立場に立てるではないか。独裁政党同士対等に争えばいい。
 そして民主党や社民党や共産党の議員や支持者をその口の汚さに相応しい残虐さで抹殺するか収容所送りにし、中共の起こした天安門事件やチベット虐殺やウィグル虐殺と同じ轍を踏めばいいではないか。それで美しい国になれると思っているのならそうすればいい。野党が弱い国はいずれ衰弱するのだ。
 石破は選挙結果を、国民は民主党と自民党が崩壊しつつある日本という国家を立て直すべく手をつなげ、と言っていると捉えた。そして、民主党との大連立構想を谷垣総裁や大島副総裁、石原幹事長に提言し、了承を得た。民主党の前原代表、仙谷副代表両氏にも話を通してある。唯一、邪魔なのは自民党原理主義者の領袖、町村だけだ。
 こいつを消せば……、と石破は決意し携帯電話の電話帳をひと通り閲覧、利用できそうな人物の名前を見つけると発信ボタンを押して電話を繋いだ。

<とあるバーにて>
 田母神は引き金を引き、浜省の後ろに近寄ってきた、目出し帽をかぶった男に発砲した。乾いた音がバーに鳴り響くと同時に、ジャケットのポケットに隠してあったサバイバルナイフを床に落として目出し帽の男は倒れた。
 男を射殺するのを見た私服警官数人が田母神に発砲し、彼も蜂の巣となって床に倒れた。警官は二手に分かれ、田母神と男の元へ寄り、床に落ちたナイフや銃を遠くへ蹴飛ばすと、脈を確認した。脈はなく、ふたつの体はもはや屍に過ぎなかった。
 渇いた破裂音を数回聞いた浜省は、反射的に閉じた目を開くとサングラス越しに前を見た。サングラス越しに見えるおぼろげなバーの騒然とした様子を見て、浜省は自分が生きていることを確信した。
 警視は、死体の男の頭から目出し帽をはぎ取り、その男の口ひげを確認すると、佐藤正久参議院議員であることを確信した。
 ふらついて足元がおぼつかない状態の浜省に背広をラフに着こなしている私服警官が数人抱きついてきて言った。「浜田さん、大丈夫ですか?」
バーの客は鳴り響いた発砲音に反応して反射的に床に伏せたり、逃げるため出口へと駆け寄っていった。騒ぎを静めようと警察官は「もう大丈夫です」と大声で張り上げて客を制しようとしたが、うまく行かずに皆逃げ出した。すぐに、店内は警察官数人と浜省と2体の死体のみ残った。
「何があったんですか?」と浜省は質問を質問で返した。頭が混乱していて、何がなんだか、誰が誰なのか分かっていなかった。
「ナイフを持った佐藤正久を、田母神俊雄が射殺しました。そして、私たちが田母神を射殺しました」と浜省の腕を持って体を支える例の警視が言った。浜省の鼻に火薬の匂いがこびりつく。「多分、田母神はあなたを守ろうとして発砲したのでしょうな」
「なぜ佐藤議員は俺を殺そうとしたのでしょうか?」と浜省は動揺をサングラスの奥に隠して言った。
「あなたはあまりにもこの事件に深く関わりすぎたのです」と警視は言った。「あなたに真相を見破られやしないかと思い、殺害に踏み切ったのです。私たちは浜田さんを護衛するのと同時に、田母神たちがこの事件に関わっていないか見極めるために密かに田母神をあなたの名前でバーに呼び出しました。あなたが田母神にコンタクトを取るだろうと踏んでね」
「そうでしたか」と浜省は驚くように言った。警察は、俺に民主党関係者による犯行だとあえて嘘をつき、実は田母神をマークしていたということか。警察も馬鹿にできたものではないと浜省は思った。
「蓋を開けたら、田母神のみならず佐藤正久が出てきたので驚きました。しかし、これで話は繋がりました」と警視は言った。「気を悪くしないでもらいたいのですが、浜田さんの推理は間違っていたのです」
作品名:謎解きはライブのまえで 作家名:牧高城