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謎解きはライブのまえで

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 石破と前原は政治思想でウマが合った。党が違うのにもかかわらず、仲良く雑誌やテレビで頻繁に対談していたので、この二人が共同で新党を立ち上げるという噂が頻繁に流れていたほどだ。しかし、民主党は前原グループと盟友の野田グループが主導権を握った。自民党も人気の高い石破の力で選挙に負けなかったということもあり、彼は党内でかなり影響力をつけている。谷垣執行部は事実上、石破の傀儡だった。
 それと、維新の会が国政に進出し、一定数の議席を得た。維新の会を干さねば既存政党である民主・自民両党は崩壊を招く恐れがある。
 しかし、前原民主党と石破自民党が連立を組めば、事実上の新党結成となり、320議席を誇る大政党となれるのだ。維新の会を数の力で排除することができる。それが両党の執行部の利害を完全に一致させた。

<自衛隊出身者の防衛大臣就任はシビリアン・コントロールの観点から見ると憲法違反だと思います>
 田母神は死線をくぐり抜けたことで、石破率いる自民党の企みに気がついた。身を守るために隠し持っていたオートマチックの拳銃とともに、浜省と待ち合わせしているバーに引きこもった。元自衛官としての誇りから、警察に身辺警護を要求するつもりはなかった。けりをつけるには独りのほうがやりやすいし、事件の目撃者である浜省と忌憚なく話ができるからだ。自分を無反動砲で狙った暗殺者の正体をこの目で確かめたかったのもある。そして、再び田母神の命を狙うであろう彼をこの手で屠ってやりたかった。それが田母神の復讐の流儀だった。
 佐藤は田母神を殺し損ねることで、自分が町村信孝暗殺犯として告発されるのではないかという恐れを抱いた。連立政権の防衛大臣に就任し、自衛隊の国軍化と国防予算倍増による自衛官の待遇の改善を石破や前原から約束された対価としての暗殺行為だった。維新の会の躍進により、佐藤の愛する自民党の凋落を阻止するという目的もある。しかし、田母神は生きている。田母神は石破や前原の企みを見抜き、官憲やマスコミに告発するかもしれない。そうなれば佐藤は大臣どころか政治犯となり全ての権威や権力を失うだろう。震災で得た自衛隊の評価も下がり所詮暴力装置だと思われてしまいかねない。
 佐藤は保身と自衛隊員の権利のため、田母神を改めて殺そうと、イラクで陸自派遣隊の隊長として過ごしていた時代から愛用していたサバイバルナイフと目出し帽を用意した。準備を整え、田母神暗殺シミュレーションを脳内で巡らせると、田母神が籠城している全日空ホテルのバーに向かうためタクシーに乗った。
 佐藤はエレベーターを昇り、バーに入り状況を確認した。浜省と話し込む田母神を見つけると目出し帽をかぶった。浜省の背後の、田母神からは見えにくいラインに沿って、絨毯の敷かれた床を音を立てずに素早く走った。かなり近づきジャケットの内ポケットからナイフを出そうとした瞬間。田母神が佐藤に目線をあわせてオートマチックの銃口を佐藤に向け、ニヤリと笑い引き金を引いた……
作品名:謎解きはライブのまえで 作家名:牧高城