小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

謎解きはライブのまえで

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

 唖然としてビデオカメラを持つカメラマンに、民兵は明らかに兵器である筒で頭を殴りつけた。カメラマンは頭に筒が直撃してカメラを落とすと同時に血を流して倒れた。浜省は身の危険を感じたが、手を床に付いている以上何も出来ないでいた。
 目出し帽をかぶり迷彩服を着た民兵は、浜省を一瞥すると駆け足で去っていった。浜省はただ呆けるのみだった。

<トキハ本店1階>
 浜省は臨時閉店後のトキハの店内で大分県警の公安担当の警視と話していた。照明が煌々と灯るだけの人っ子一人も居ない店内は快適なのか、それとも不気味なのかよくわからなかった。ティファニーとグッチとコーチに挟まれた通りの真中で話をした。
「浜田さんが称する、民兵とやらが抱えていた筒は対戦車榴弾を発射するカール・グスタフ無反動砲という兵器でした」と警視は言う。「町村議員の他に自民党職員数名と聴衆・野次馬数十名が亡くなりました。貴重な重火器を用いた犯行なので、自衛隊の調査隊により検証されました。その結果、カール・グスタフから発射された榴弾の爆発が死亡原因と思われるとのことです」
「そうですか」と浜省は慇懃に答えた。「お気の毒です」
「それと」と警視は背広のポケットからまさぐった白い布を取り出して続けた。「屋上から一風変わったものが見つかりました。民兵とやらが置いていったものと思われます。指紋も検出されました。コンピュータによる照合の結果、小沢一郎民主党元代表の元私設秘書の指紋と一致しました。ちなみに彼は行方不明です。彼を重要参考人として全国に指名手配しました」
 警視は白い布を開いて中身を見せた。日の丸に水面に写った影をあしらったマークが目立つ民主党のバッジだった。
「民主党が犯人と見せかけたフェイクでしょうか?」と浜省は訊いた。
「何故そう思われます?」と警視も訊き返した。「町村議員のイデオロギーや民主党に対する言動からすれば、町村が民主党から恨みを買って殺害されたとしても不思議ではありません」
「しかし」と浜省は反駁した。「都合よく民主党の陰謀と断言するには物証があからさま過ぎます。民主党は天下の公党であり、犯罪に手を染める可能性は著しく低いでしょう。持ち主が犯人だとは限りません。犯人が持ち主から盗んだものをわざと落とした可能性もあります」
「過去の話ですが」と警視は前置きして問いかける。「共産党には在日朝鮮人と徒党を組んで暴動を起こした過去があります。民主党だって旧社会党ベースの極左政党に過ぎませんから、何を起こしても不思議ではないでしょう」
「しかし」と浜省は再び反駁した。「あまりにもロジックが単純すぎやしませんか?」
「私が思うには」と警視が言う。「間違いなく民主党の陰謀に間違いありませんね」
「何故そう思われます?」と浜省は再び訊いた。
「極めて単純な話です」と警視は答えた。「町村議員を嫌いそうな組織は単純に民主党だけだからですよ。被害者と利害関係のある者が容疑者に最も近いというのがセオリーです」
「わかりました」と浜省は折れるように言った。「ちなみに、町村氏は亡くなったと確認が取れたようですが、田母神氏の安否はどうなんでしょうか?」
「事件当時、田母神氏は腹を下して大分フォーラス地下にあるトイレに行っていたそうで、無事でした。トイレに一番近いタワーレコードの店員が目撃しています」と警視は答えた。「民間人でしかない田母神氏目当てではなく、明らかに政治家である町村氏を狙ったものだとこれで断定できるでしょう」
「そうですか」と浜省は答えた。
「何かありましたら、こちらから連絡させて頂きますので」と警視は言うと慇懃に礼をした。「コンサート、頑張ってください」
「ありがとうございます」と浜省も言い礼をして別れた。

<ふないアクアパーク>
 トキハの従業員専用出入口から裏道に出たが、方向感覚がわからないので、右に曲って適当に歩いて行ったら噴水のある公園があった。ベンチに腰掛け、水路に水が流れるのを見ながら思考を巡らせた。
 その一。
 警視は民主党バッジのことを、「民兵とやらが”置いていったもの”」と言った。警視が犯人が民主党員だと思っているのならば、”落としたもの”と答えるはずだ。民主党関係者が犯人だとしたら、証拠になりうるバッジを故意に置いていくはずがない。あくまで”置いた”と言うのならば、何らかの意図を、例えば陽動とかを持ってして残したという意味に捉えたほうが自然だ。だから、警視は民主党がこの事件に関与している可能性はかなり低いと思っているに違いない。
 しかし、警視はあくまで民主党が首謀者だと断言して譲らない。そこに矛盾がある。
 その二。
 迷彩服を着ていた犯人の民兵はトキハ社員を焼き殺し、カメラマンを撲殺したにも関わらず、何故俺だけを殺さなかったのかが解せない。榴弾砲を器用にに扱っていた迷彩服の男はプロの殺し屋か傭兵なのだろうか。
 俺を生かしておかねばならない何らかの理由があるに違いない。
 その三。
 町村が榴弾砲の直撃を受け肉塊になった時に、田母神がファッションビルの地下にいて無事だったが、なぜ犯人は田母神と町村を同時に殺さなかったのか? 犯人が田母神の不在を知らずに攻撃したことで田母神が運良く生き残れたという偶然なのか、それとも町村のみをターゲットにし、田母神を生かしておかねばならない事情があったのか。
 しかし、田母神が演説するために街宣車の中で待機しているだろうということを予測できても、田母神がトイレに行くことを犯人には予測できないだろう。だからあくまで田母神と町村を共に吹き飛ばす計画だったのかもしれない。いいタイミングでトイレに行ったのは田母神の強運がもたらした僥倖なだけなのかもしれない。そうなれば、町村だけが死んだ今、次に狙われるのは田母神かもしれない。
 浜省はソニーエリクソンのスマートフォンを取り出すと大分県警に電話し、先程会話を交わした警視に連絡を取り、田母神の滞在場所を尋ねた。念のため大分赤十字病院で精密検査したしたものの、体に異常はなく、今は宿泊先の大分全日空ホテルオアシスタワーのバーで飲んでいるとの事。電話を切ると、浜省は水を勢いよく噴出し足元に流れる様を眺めながら情報を整理した。
 浜省が突然消えて焦ったマネージャーが繁華街中にスタッフを総動員して探しまわらせたらしい。バイトらしい見知らぬ若い学生が浜省を見つけて声をかけるまで思惟は続き、ある程度のおぼろげな推論を立てるにまでは至った浜省はおとなしく複合文化施設へと戻った。そして、施設に入居する市民図書館に行って大手四大新聞すべての政治欄を読みあさった。

<大分市民図書館>
 民主党の野田内閣が消費税問題を巡って、総辞職ではなく解散総選挙を選んだのは記憶に新しかった。結局、民主党は議席を大幅に減らし、自民党は議席を増やした。とはいっても、民主党160議席、自民党160議席、維新の会80議席で、どの党も単独過半数には届かなかった。
作品名:謎解きはライブのまえで 作家名:牧高城