アイラブ桐生 第一章
右側に回りこんできて、私にもたれかかってきたレイコからは、
髪を洗いたてたような石鹸の香りが漂ってきました。
それもまた、初めて真近に嗅ぐ私の知らないレイコの匂いでした。
もちろん、こんな風に寄り添ってレイコと歩くのも、
生まれて初めてのことでした。
「デートみたいだなぁ。」
「してるでしょ・・」
さらに身体をすり寄せてきました。
そんなレイコに引っ張らっれながら、次々と仲見世通りのお店を覗き、
人の流れを避けながら、右に左へと参道をジグザグに歩きました。
「はじめてかな?
お前と歩くのって。」
「そんなことない・・・
いつも一緒に、歩いていたわ。」
レイコは当たり前という涼しい顔をして、平然と答えました。
「・・・・」
まったく記憶がありません、そんな感覚さえ残っていません。
「小学校の遠足の時だって、一緒だったし
中学校の修学旅行の時でさえ、
私はつとめて、いつもあなたの隣を歩いていたわよ、
わたしは。」
「んん・・・・」
「え~!、何にも、覚えてないんだぁ!」
作品名:アイラブ桐生 第一章 作家名:落合順平