アイラブ桐生 第一章
アイ・ラブ・桐生 第一部
(6) 第一章 学生たちの喫茶店(後)
「どうする?」
私の背中に張り付いたまま動かないレイコへ、
そう声をかけたのは、上野方面へ向かう地下鉄に乗ってからすでに、
2駅も過ぎてからのことでした。
「擦りむいちゃったぁ・・・」
私の前に回りこんできて、
ほらと、ふっくらとした手のひらを突き出して見せました。
確かに、かすかな擦り傷の跡にはうっすりと血がにじんでいました。
でも、こいつ、こんなに可愛いくて小さな手のひらをしてるんだ・・・
「あんなに、助けてって呼んだのに・・」
ドキドキするほどの至近距離に、顔をよせてきて、
「いつも肝心なときは、ダメなんだから・・」
と、小さな声でつぶやきました。
それで気がすんだのか、少し私から離れると
「すこし時間をつぶそうよ。」
「ん・・・」
「まだ、帰るには・・・すこし早いもの。」
たしかに、予期せぬこととはいえ、
デモ行進は予期せぬ事件の突発で、予定よりもはるかに早い
解散になってしまいました。
作品名:アイラブ桐生 第一章 作家名:落合順平