理沙と武志
6ばん
「ほらほら、起きた起きた」
翌朝、武志は理沙の声で目が覚めた。
「なんだよ、早くないか?」
「早くない早くない。それよりもニュースがあるから、ほらほら目覚めろ目覚めろ」
理沙は武志の足の裏やらなんやらを勢いよくくすぐった。 武志は慌てて起き上がった。
「わかった、わかったからやめてくれ。いったい何なんだよ」
「うん、昨日さ、学校でぼや騒ぎがあったらしくてさ」
「ぼや? なんでだよ」
「ほら、例の不審者。あれが絡んでるらしいんだって」
「それ本当か? 誰か目撃者でもいるのかよ」
「ま、噂だから。学校行けば詳しいことわかるんじゃない?」理沙は目を輝かせて手をわきわきさせて武志におおいかぶさった。「と、いうわけで、お着替えしましょうか」
もちろん武志は理沙を押しのけた。
「わかった、わかったからリビングか外で待ってろ」
「はいはい、全くつれないつれない。おかーさまー」
騒々しく出て行った理沙を無視して、武志は手早く着替えた。リビングに行ってみると、理沙と涼子が朝から妙に盛り上がっていた。
「着替えだからって追い出すのって愛が足りないと思いません?」
「あー、どうだろうね。あたしはそういう経験ないからなんとも言えないけどさ、あの子はあれでシャイだから、愛ゆえってのもあるんじゃないの?」
「なるほど、好きな人の前では素敵なあたしでいたいの! っていうやつですね」
「そうそう、花も恥らうお年頃ってやつ」
2人はわははと笑っていた。武志はできるだけ静かに理沙の背後に近づいた。もちろん涼子は気づいたが、武志は目で黙っていろと伝えた。そして理沙の肩に両手を置いた。
「楽しそうじゃないか」
理沙は振り向かずに、肩に置かれた手をつかんだ。
「もちろん、すっごく楽しい。もっと楽しくする?」
そう言って、自分の胸元に武志の手を引っ張りこもうとした。武志は手を引き抜いて猫だましを一発きめて理沙の隣に座った。
「朝からそういうことはやめとけよ」
「ほう、それじゃ夜はやりたいほうだいか? 避妊はちゃんと複合的にしとけよ、君達」
涼子は実にいい表情でニヤニヤしていた。とても母親とは思えなかった。