理沙と武志
5ばん
「まあ、つまりそういうこと。わかった?」
理沙は大体のことをさおりに説明し終わった。さおりは初めて聞いたというような顔でいちいちうなずいていた。
「そんなことがあったんだー」
「話聞いてろよ」
武志はあきれたようにつぶやいたが、理沙もさおりも適当に流した。
「まあそれでさ、こいつが隠しカメラをを仕かけたとか言ってんの」
「カメラって? どこに? なんで?」
「それは俺じゃないぞ」
武志の事実である否定にも耳を貸さず、理沙は続けた。
「いい? 世の中にはマニアックな連中がいんの。トイレとか撮って喜ぶような連中とか、ゲロ吐いてんのが好きな連中とかさ」
「変わった人もいるよねー」
「そういうこと。で、それが理解できちゃってる奴もいんの」
「え? 誰が?」
理沙は黙って武志を指差した。さおりはその指と武志を交互に見て首をかしげた。
「えーっと、前田君は変態?」
武志はあきらめの表情で特に反応しなかった。一方理沙は実に楽しそうにしていた。
「そうそう、そういうこと思いつく奴はちょっとは同類なわけ」
「同類」さおりは理沙の顔をじっと見つめた。「それじゃあ、理沙ちゃんもそういうことしてあげてるの?」
一瞬場が固まった。理沙はすぐに復活して、表向きはなんともないような顔をした。
「まさか! そんなんだったらゴミ処理業者呼んでるって」
「だよねぇ。あ、それじゃ、わたしは部活だから。じゃーね」
さおりは笑顔で去っていった。理沙は少し気まずそうに武志を見た。
「まあほら、別に本気ではそんなことは思ってないから」
「そうか?」武志は立ち上がって、理沙を抱き寄せた。「案外、あってるかもしれないぜ」
「ばーか」理沙は武志の鼻の頭を軽く押してから、耳に顔を寄せた。「でも、それでもいいよ」
「冗談だ、冗談だよ。やめとけって」
武志は慌てて理沙を引き離した。