理沙と武志
4ばん
そしてあっという間に放課後。良助は実に楽しそうにカバンを抱えて立ち上がった。ブレザーのポケットがなぜか妙に膨らんでいた。武志は少し迷ったが、つっこみをいれることにした。
「お前、そのポケットはなんだよ」
「気になるか? 気になるよなあ」
良助はうれしそうな表情を浮かべて、ポケットに手を突っ込んだ。そこから出てきたのは、何やらものものしい手袋だった。聞かれもしないのに良助は語り始めた。
「これはな、ただの手袋じゃない。まずこの繊維なんだが、アラミド繊維でな、しかも芯にステンレスワイヤーが使われてる特殊仕様だ。しかもここ、拳のところを見ろ、ガードがついてるだろ? これはお手製なんだが、なかなかいいできで、そこらへんの壁を力いっぱい殴っても痛くもなんともない。どうだ? 最高だろ」
まわりの人間は誰も聞いていないし、武志も適当にうなずいているだけだった。しかし、良助はそんなことは気にしない。
「これさえあれば変質者でも何でもかかってこいだぜ。ま、そういうわけだから、お前は気をつけながら安心して帰れよ」
良助はそう言って教室から出て行った。入れ違いに理沙が教室に入ってきた。なぜか廊下のほうを見ながらしばらく入り口で立ち止まっていたが、教室内に向き直るとすぐに武志を見つけて、近づいてきた。
「今、変なもんとすれ違ったんだけど」
「それは気にしなくていいから。それより不審者が出たって、聞いたか?」
「聞いた聞いた。変態っているもんだよね」
「いや、まだ何だかわかってないんだろ」
「学校に忍び込むなんて変態に決まってんじゃん。きっと誰のだとかかまわずに自転車のサドルのにおいをかぎまくるような変態だってば」
「やけに具体的だな」
「だって、特になにか盗られたりしてないみたいじゃん。ということは、そういう変態行為をしにきただけなんじゃないの?」
「ひょっとしたら、隠しカメラでも仕かけたのかもな」
理沙は2歩ほどあとずさって、そこのかたわらに座っている女子の肩に手を置いた。
「今の聞いたさおりちゃん?」
声をかけられた真中さおりは、読んでいた本から顔を上げて、メガネを直してからぼんやりと理沙と武志を交互に見た。
「えーっと、なに話してたの?」