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理沙と武志

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1ばん


 前田武志、高校2年生は気持ちよく眠っていた。しかし、それはあまり続きそうになかった。
 里山理沙、武志と同じく高校2年生が、前田の布団かたわらに座って、武志の寝顔をじっと見ていた。何を思ったか、理沙はショートカットの髪が武志の顔にかかるほど、自分の顔をぐっと近づけて、さらにまじまじとその寝顔を見つめた。
 武志は何か異様な雰囲気を感じて、ゆっくりと覚醒した。目の前の顔をぼんやりと認識して、とっさに離れようとしたが、それは枕に阻まれた。
 理沙は笑顔で、ゆっくりと武志の唇に自分の唇を重ねた。2秒ほどしてから、武志は強引に理沙の顔を押し返した。
「朝から何なんだよ」
 武志は不機嫌そうだったが、理沙は実に機嫌が良さそうだった。
「朝だからこそじゃない。それに、本当は楽しんでたくせに」
「楽しんでない」
「またまたあ」
 理沙は笑いながら武志の鼻をつまんだ。武志はその手をつかんでどかすと、ゆっくりと起き上がった。そして、その手を放して指先で理沙のおでこをぐっと押した。
「着替えるから、外で待っててくれよ」
「別に着替えさせてあげてもいいんだけどお」
「気持ち悪いこと言うな」
「はいはい、わかりましたよ」
 理沙は渋々部屋を出て行った。武志は枕元に置いておいた制服に手早く着替えてリビングに向かった。母親の前田涼子が本を読みながらパンをかじっていた。
「おはよう。理沙ちゃんが待ってるから、さっさと行きなさいね」
「わかってるよ。でも朝から家に入れるのはもうちょっと考えてもらいたいんだけどさ」
「別に、もう家族みたいなもんでしょ。いいからさっさと行った行った」
 武志は放り投げられた朝食と昼食代を受け取って、さっさと家を出た。5階ぶんの階段を駆け下りると、理沙が退屈そうに待っていた。
「待たせすぎ」
「5分くらいしか経ってないって。大体、お前のほうから押しかけてそれはないだろ」
 理沙は武志のネクタイをグイッっと引っ張って、自分の顔から1cmくらいの距離まで近づけた。
「模範的な回答とは言えませんね。謝罪と訂正を要求します」
 武志はその手を振り払って、ネクタイを直した。先に立って歩き出そうとしたが、理沙が腕を無理やり組んできたのでそれはできなかった。理沙の顔を見ると、気持ちいいくらいニヤニヤしていた。
「そう焦らないで、ゆっくり行こうよ武志君」
「わかったよ」
 そう言った武志は、それほど嫌そうな様子もなく歩き出した。

作品名:理沙と武志 作家名:bunz0u