理沙と武志
15ばん
怪しい男はスローモーションのようにさおりを離して前のめりに倒れた。武志がそれに近づこうとした時、いつのまにか立ち上がっていた良助が男の顔を思い切り蹴り上げていた。
「やってくれたじゃねえか」
良助は頭から血を流しながら、真っ赤な血を口から吐き出した。そして、武志が止めようとするのも間に合わず、続けざまに男の顔と言わず腹と言わず、連続して蹴り上げた。
「少しは! 反省しろよ! このクソ変態が!」
良助は完全に頭に血が上っていた。
「ちょっと、それ以上はまずいって」
理沙が後ろから抱きついて止めようとした。だが、良助はそれをすぐに振り払った。
「やめろ!」
武志が続けざまに良助に飛びかかって、なんとか怪しい男から引き離した。良助を壁に押し付けて、両肩をぐっと握った。
「落ち着け。もう十分だろ」
良助は血走った目でしばらく肩で息をしていたが、ふっとためいきをついた。
「わかった、わかったから離せよ」
ゆっくりと武志の手が離されると、良助は自由になった腕で頭の血をぬぐった。それからいつもの調子を取り戻して、倒れている怪しい男を顎で指した。
「で、そこの変態はどうする? 裸に剥いてから縛ってそこらへんに転がしとくか」
「当直の先生に知らせよう」
「あーあ、気が進まないな。それより、さおりちゃん大丈夫?」
さおりに肩を貸していた理沙が心配そうにその顔を覗き込んだ。さおりは演技でなく、笑顔を一同に向けた。
「大丈夫。怖かったけど、こんなスリルなかなか体験できないもんねー」
「らしいな」
3人は声を合わせて、そう言って笑った。
「それじゃ、そろそろ当直さんを呼んでくるか。おい、ちょっとベルト貸してくれよ武志君」
「ああ、そうか」
武志はベルトを外して良助に渡した。良助は自分のベルトも外して、それで悶絶している怪しい男の足と手をきつく縛った。
「それじゃお2人さん、メッセンジャーよろしく」
良助はすっきりした笑顔を理沙とさおりに向けた。