理沙と武志
13ばん
武志と理沙は3階を一通り見てまわった。特に怪しい人影はなく、暇な夜警の見回りという感じだった。
「せっかくの夜の学校だってのに、何も面白いことがなさそうじゃんねえ」
「なにかあるよりはましだな」
武志は先に立ってどんどん歩いていった。武志の腰に腕をまわしている理沙はそれにどんどん引っ張られた。
「ちょっ、ちょっとゆっくり、もうちょっとゆっくり歩かない?」
「えっ」
珍しくあわてた様子の理沙に、武志は満面の笑みを浮かべた。そしてさらに足を速めようとした。
「ああ、もう調子に乗るなってば」
理沙は武志にしがみついて無理やりスピードを落とさせた。武志は負けずに理沙の腰に腕をまわして、グッと持ち上げてスピードを上げた。
「おっ、力強いねえ」
笑顔の理沙はしばらくの間そのまま引きずられていたが、武志はすぐに立ち止まってしまった。理沙が不思議そうに武志の顔を覗き込むと、真面目な顔があった。
「なあ、下のほうから何か、音がしなかったか?」
理沙は周囲を見回してから首をかしげた。
「別に、何も聞こえなかったけど」
武志は理沙の反応を見て、しばらく考え込むように腕を組んでうつむいた。理沙もなんとなく黙ってその様子を見ていた。
「よし」武志はおもむろに顔を上げた。「下に確かめに行くぞ」
「はいはい、それじゃちょっと待って」
理沙はそう言ってトイレに入って行った。出てきたときにはモップを2本手に持っていた。
「なんだよそれ、おっと」
理沙はモップの1本を武志に投げて渡した。
「怪しい奴がいるかもしれないなら、武器くらい持ってったほうがいいでしょ」