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てっしゅう
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「哀の川」 第十三章 相次ぐ別れ

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翌日の早朝、病院に居た功一郎の母親から電話があった。たった今、亡くなったという知らせだった。渋谷の自宅での葬儀には、裕子と麻子と純一、杏子が参列した。一人の時代を駆け抜けた風雲児の葬儀にしては、寂しい参列者の数だった。もう、時代からも忘れ去られようとしていた悲しさが、麻子の胸には響いていた。

葬儀の帰りに、五人は久しぶりに良く通っていたカフェに立ち寄った。店長が「お久しぶりですね。いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。麻子と直樹にとっては思い出深い場所だ。功一郎への思いは無くなってはいたが、11年間過ごした元夫の死は、早すぎるだけにショックは隠しきれなかった。麻子の元気の無さに純一は気遣いを見せた。

「ママ、元気出してよ。パパはきっと天国に行っているよ。ボクやママや直樹パパやお姉ちゃんたちが幸せになるように祈ってくれているよ」
「本当よね、純一・・・私たちが功一郎さんの分まで頑張らなきゃいけないわよね」裕子はそう言った。直樹は色んな思いが交錯していた。功一郎から麻子を奪ったのは自分であること。美津夫から好子を奪ったのも自分であること。その二人が相次いで亡くなってしまったのは、自分にとって何を意味しているのか・・・考えざるを得なかった。

次に誰の命を奪えばこの連鎖が停まるのだろう・・・そんな憶測さえ考えさせられる心境になっていた。救いは裕子に与えられた新しい命だ。未来の誕生がこの連鎖の入れ替わりになっている、とそう思えば気持ちが楽になる。真剣な表情をしている直樹に杏子は尋ねた。
「直樹、複雑な顔をしてるね。何を考えているの?」
「うん、なんだかね、二人の死が他人事ではないように感じられるんだよ・・・責任って言うのか、すこし呵責の念に駆られるんだ」
裕子がそれに答える。
「そんなことは無いよ。直樹さんは麻子を幸せにしたし、好子だって幸せに感じていたよ、ゴメンね麻子言っちゃうけど・・・」
「裕子さん、それは・・・そうかなあ・・・自分だけが幸せになって、周りが不幸になってはいけないって、そのことが気になるんだよ」
杏子が答える。
「直樹、裕子さんの言うとおりだよ。ねえ、麻子さん?純一がいるし、未来ちゃんだってこれからだし、直樹が大黒柱なんだから、しっかりしないと。過去は過去だよ、私たちだってそうじゃない」
「姉さん・・・純一がいる前で・・・」
「直樹パパ、ママと裕子姉さんと未来ちゃん、それに杏子姉さんと皆で、どこかへ出かけようよ。キャンプがいいなあ、未来ちゃん小さいからダメかなあ?」

純一は一度みんな揃って、旅行がしたいと考えていた。母親と二人で北海道へ行ったあの時、今度はパパと一緒に来たいと言った事を思い出して考えたのだ。

「純一は私と北海道へ行ったときのことを思い出してくれたのよね?今度はパパと行きたいって・・・寂しい思いをさせていたからみんなと居るのが楽しくて、言ってくれたんだよね?」麻子は思い出していた。直樹とはまだ付き合う前の出来事だったから、皆は知らなかった。

「そんな事があったんだね、純一はその時の事をボクやみんなと果たそうと考えてくれたんだね。じゃあ期待に答えて、皆で出かけようか?」
「パパ!ほんと!ねえ、杏子姉さんも行くでしょう?お店休めるの?」
「仕方ないね、純一のためなら・・・でも二日ぐらいかな休めるのは、みんなそれで構わない?」
「未来も小さいからその方が助かるわ。主人もそんなに休めないだろうし・・・母も一緒に呼んであげようよ」
「そうね、じゃあ全員で、という事で、後は日にちだなあ・・・カレンダーを見せてよ、麻子」
「はい、直樹」
「ん〜11月に連休があるから、学校が休めるなあ・・・22と23日に決めようか?場所は姉さん考えてよ」
「もう涼しい季節の頃ね・・・伊豆か箱根にしようか」
「そうだね、近場が楽でいいような気がする。レンタカー借りてみんなで乗って行こうよ」直樹は自分と美津夫で運転をすると決めていた。カフェを後にして、自宅へ戻った。重苦しい気持ちは家族旅行の話で消えていた。純一の作戦は見事に当たった。

夜に店を開けた杏子は、二階の片付けをした。遺品らしきものは渋谷の実家へ届けた。好子のものと思われるものは、そのままにして整頓した。次にここで暮らすのは誰だろうと・・・そんな思いにも駆られて、自分ではないことだけは確実だなあとほくそ笑んだ。
自分が好きになる相手とは結ばれないし、自分を好きになってくれる相手とも結ばれないし・・・世間はいまさらに自分には冷たく当たるのか、と感傷に耽っている杏子の日々だった。