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『喧嘩百景』第2話緒方竜VS石田沙織

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 意表を突かれて竜は大声で突っ込んだ。
 「運動は屋外でねーっ」
 廊下から沙織の声が返ってくる。
 「竜ちゃん、屋上屋上」
 美希がにこにこと天井を指差した。
 何で鬼ごっこまでせにゃならんのや。
 竜はちょいとその気になってしまった自分の気の短さを後悔した。
 「いくよ。緒方」
 野次馬根性丸出しで面白がっている羅牙たちに促されて、竜は渋々教室を出ていった。

★          ★

 石田沙織は屋上のコンクリートの手すりに腰掛けて三人を待っていた。高いところなどあまり好まない竜にとっては他人事でも気持ちのいいものではなかった。
 なのに、
「待ちかねたぞっ、関西人」
と、沙織は手すりの上で立ち上がった。
 「やめんかっ、危ない」
 ぞくっと寒気を感じた竜は沙織を怒鳴りつけて、何とかしろとばかりに羅牙と美希を振り返った。
 「大丈夫大丈夫、落ちやしないって」
 「竜ちゃん、高所恐怖症?」
 二人は全然お構いなしでもう完全に観戦モードに入っていた。
 どこから持ってきたのかパイプ椅子に腰掛け、美希などはどこから出したのかティーカップで茶を啜っている。
 「何くつろいどんのやっ」
 竜はとりあえず関西人らしい突っ込みをかまして、沙織に向き直った。
「もう、何でもええ、かかってこいや」
 沙織は手すりからぴょーんとわざわざ飛び上がるようにして降りてきた。宙返りこそしはしなかったが、やりかねない身の軽さだった。
 「かかってくるのはそっちだぞ、関西人」
 沙織は片手を腰に当て拳を突き出した。
 「泣かす」
 竜は拳を握って殴りかかった。
 先手必勝。軽ーく小突いて終わりや。
 大阪では常勝を誇っていただけあって、緒方竜の運動神経は抜群だった。腕力も並外れていたし、体力も人五倍くらいはありそうだった。
 沙織の方は、五○メートル走と走り幅跳びこそ陸上部並だったが、あとは級外ぎりぎりで、とても竜に喧嘩を売ってこれるほどの身体能力を持ち合わせているとは思えなかった。
 竜は寸止めしてやるつもりで沙織の腹部に拳を繰り出した。
 瞬発力でもリーチでも竜の方が数段勝っている。
 二人の距離と踏み込みのタイミングから言っても、沙織にかわせるはずがなかった。
 しかし。