A darling things
私はいつの間にか微笑みを浮かべていた事に気が付いた。
「娘に同じ事を言われたよ」
義父は目を閉じて、ゆっくりと顔を空に向けた。
幼少の頃の妻を連れてここに来たときの事を思い出しているのだろう。
この家がいつから建っているのかは知らないが、なんとなくそんな気がした。
義父の目が開くのをじっと待ってから、私は訊ねた。
「そのときにはなんと?」
娘がお皿にパンケーキとフォークをのせて家から出てきた。
一直線に蜘蛛の巣に向かっている。私と義父は娘の行動を静かに見守った。
蜘蛛の巣の下にパンケーキを置くと、ぺこりと頭を下げて、
「クモさん、ごはんの邪魔してごめんなさい。代わりにミキの大好きな、ママの作ったパンケーキを食べてください」
娘は私達の所に駆けて来て、早く行こうよと急かした。
「美樹ちゃんはいい子だね、パパのパンケーキを食べていいよ」
「ほんと?」
娘の、ぱぁっと輝く笑顔に、私と義父の目尻が垂れ下がる。
「おじいちゃんの分と半分ずつあげようかね」
「パパ、おじいちゃん、ありがとう!」
「手を洗って食べるんだぞ」
私がそう言うと、娘は、うんっ!と笑顔でうなずいた。
娘は元気よく家に駆け込んで行った。
「なんだったかな」
義父は嬉しくて仕方がないといった微笑みを浮かべた。
「ただ……同じような出来事を見たような気がするよ」
そう言い残して家の中に入って行った。
庭に取り残された私は、蜘蛛の巣の下に置かれたままのおいしそうなパンケーキをどうしたものかと首を捻った。
妻はきっと『クモさん、おいしく食べてね』と私の肩を叩く事だろう。
美樹は来月小学生になる。
仲の良い友達が違う学校に行く事が寂しくて、泣き疲れては眠る日が続いていた。気分転換になればと思って連れて来たのだが、どうやら正解だったようだ。
美樹の教育方針については妻と争う事はなかった。
妻も私も“勉強なんてどこでもできる”を実践した経歴を持っているので、それほど教育熱心ではない。親としては良い事なのか悪い事なのかはっきりしないが“授業では学べない事”の方が人生において遥かに重要だという事を、妻も私も身に染みて知っているのだ。
美樹が確固たる意思と目的を持って有名私立に通いたいと言ってきたときは、私達は反対したりしないだろう。
―― 娘よ。
―― 愛しい娘よ。
「娘に同じ事を言われたよ」
義父は目を閉じて、ゆっくりと顔を空に向けた。
幼少の頃の妻を連れてここに来たときの事を思い出しているのだろう。
この家がいつから建っているのかは知らないが、なんとなくそんな気がした。
義父の目が開くのをじっと待ってから、私は訊ねた。
「そのときにはなんと?」
娘がお皿にパンケーキとフォークをのせて家から出てきた。
一直線に蜘蛛の巣に向かっている。私と義父は娘の行動を静かに見守った。
蜘蛛の巣の下にパンケーキを置くと、ぺこりと頭を下げて、
「クモさん、ごはんの邪魔してごめんなさい。代わりにミキの大好きな、ママの作ったパンケーキを食べてください」
娘は私達の所に駆けて来て、早く行こうよと急かした。
「美樹ちゃんはいい子だね、パパのパンケーキを食べていいよ」
「ほんと?」
娘の、ぱぁっと輝く笑顔に、私と義父の目尻が垂れ下がる。
「おじいちゃんの分と半分ずつあげようかね」
「パパ、おじいちゃん、ありがとう!」
「手を洗って食べるんだぞ」
私がそう言うと、娘は、うんっ!と笑顔でうなずいた。
娘は元気よく家に駆け込んで行った。
「なんだったかな」
義父は嬉しくて仕方がないといった微笑みを浮かべた。
「ただ……同じような出来事を見たような気がするよ」
そう言い残して家の中に入って行った。
庭に取り残された私は、蜘蛛の巣の下に置かれたままのおいしそうなパンケーキをどうしたものかと首を捻った。
妻はきっと『クモさん、おいしく食べてね』と私の肩を叩く事だろう。
美樹は来月小学生になる。
仲の良い友達が違う学校に行く事が寂しくて、泣き疲れては眠る日が続いていた。気分転換になればと思って連れて来たのだが、どうやら正解だったようだ。
美樹の教育方針については妻と争う事はなかった。
妻も私も“勉強なんてどこでもできる”を実践した経歴を持っているので、それほど教育熱心ではない。親としては良い事なのか悪い事なのかはっきりしないが“授業では学べない事”の方が人生において遥かに重要だという事を、妻も私も身に染みて知っているのだ。
美樹が確固たる意思と目的を持って有名私立に通いたいと言ってきたときは、私達は反対したりしないだろう。
―― 娘よ。
―― 愛しい娘よ。
作品名:A darling things 作家名:村崎右近