A darling things
「おとーさーん! 愛娘が孫連れて遥々来てあげたわよー!」
外から男を呼ぶ若い女の声が聞こえてきた。
男は声の主を確信すると、先程とは別人のようにゆっくりとキーを叩いた。まるで、一文字ずつ噛み締めているかのように。
打ち終えた男は、満足気な表情で立ち上がり、部屋を後にする。
愛しいもの達を迎えるために――。
人気の無くなった部屋で[華代−三歳 春]という文字が静かに光を放っている。
春は、まだまだ終わりそうにない。
― 了 ―
作品名:A darling things 作家名:村崎右近