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世界は今日も廻る

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滑り込む写真には、どこかで見たような女性と男性がカップルで写っている。どこを見ているのか、互いに互いしか目に入ってないとでも言うような幸せな写真。この世界が平和であり自分たちは幸せの絶頂に居てだから周りも全て幸せだとでも思っているような幸福な写真。
向かい合う男女はどちらも綺麗な顔をしていて、絵になるとでも言えばいいのか。まるで映画のワンシーンみたいな、自然で不自然なもの。観察者を念頭において幸せを演じている不自然さ。
「この二名をデリートして欲しい。手段を問わない。」
「デリート?ブレイクじゃなくて?」
「デリート。俺ももちろん手伝うけど、基本はお前の仕事。どう?」
「悪くないけど、デリートねぇ・・・。」
デリート、消去。ドッチで言ってもいいけど、ともかく消せって事。この世界から退却願うナニモノかが俺たちみたいな存在を使用する。需要があるから供給がある。そんな社会の仕組みに忠実な仕事。
いわゆる、殺し屋。始末屋。掃除屋。なんと言ってもいいけどね。所詮呼称は他者から与えられるもので自分で与えるものではない。自称したとしても内実が伴わなければ意味がない。呼称は、共通認識であり標識と一緒だ。
「なに、したわけ?」
新しいカップで珈琲と、一緒に買ってきたフレンチクルーラー十個。さも嫌そうにそれを眺めて、コイツは何も見なかったフリで笑う。その笑みは独特、人を馬鹿にしたような顔で真剣に笑うとか器用以外の何者でもないと思う。ついでに、そんな笑みが似合うとか人としてどうかと思う。破綻していると思う。
人様のフレンチクルーラーに伸びてくる不埒な手を叩きのめして、早速かじりつく一個目。うん、何時もと同じく間違いなく美味しい。さすが回転の速いドーナツ。この味でほぼ全てのドーナツの優劣が分かると思うのは俺の持論。二個目、間違いなく美味い。薄い珈琲がなんともドーナツにジャストフィット。寸分の隙間無くまるで誂えたようにピッタリシッカリ嵌りこむ。まるで最初から用意された鍵と鍵穴みたいな。
三個目、コイツはちょっと変化球、煙草と共に楽しむ。煙草吸ってドーナツ食べて珈琲飲んで忙しい。でも、これも重畳間違いなく美味しい。
「話を再開しても。」
「いいよ。」
ドーナツから視線は逸らさないけどね。これは俺が真剣にドーナツと向き合ってるって意思表示。目の前の男の話よりも、俺はドーナツのが大事。全ての事象はのべつくまなく食べ物以下に存在する。人間の三大欲求の一つである食欲。暴食はいただけないけどね。食べるって行動は俺の基盤であり俺が最大にして要求する唯一のもの。逆に言えば。食べ物があれば俺はほぼ100%の割合で機嫌がイイ。
「まずこのカップルな。突っ込んじゃいけない道に両足突っ込んで始末が悪いことに抜け出せないと足掻き苦しんでる。悪あがきなんてものは、一から十まで醜い上に生産性がまるでない。悪足掻く努力をするのなら、最初から一歩を踏み込まない努力をするべきだと俺は思うけどね。」
「へぇ。」
「いやいや、そこで感嘆符はオカシイだろうよ。ちょっとは真面目に話し聞いて。」
「不真面目な話を真面目に聞くとか、それどんなギャグ?ちょっと殻回って不発気味だよ、それ。フレンチクルーラーを超える面白さと美味しさがあるとは思えない。」
「うん、そこは同意する。全てのドーナツはフレンチクルーラーから発生したと言っても言いすぎではないぐらいに、フレンチクルーラーは全てだ。」
「そこは同意しない。続きをどうぞ?」
「可愛くないねぇ、まったくさ。でだ、この悪足掻きのクソカップルだけどね、こいつら勝手に悪足掻きする分には醜いねぇ、みっともないねぇ、馬鹿だねぇ。の三拍子で済む話なんだけど、ところがどっこい悪足掻きついでにイラナイモノまで引きずり込むこからこりゃ大変な訳ですよ。いやいや、これは不真面目な話。勝手に足掻いて勝手に沈めばいいものを、何を思ったのか手当たり次第に人を引きずりこみ始めて、お前は置いてけ堀かっての。」
「何それ。」
「だろ?」
「いや、おいてけぼりってなに?老いて毛彫り?」
「・・・釣った魚を置いていけって要求する幽霊で最後は釣り人を引きずりこむんだよ。」
「ナニソレコアイ。」
「俺はお前の視点が怖い。ってことで、邪魔になったカップルをデリートしろとのご命令だ。どうだ?お間白いだろ?」
「おいてけぼりのくだりは楽しかった。知らないことを知るのは何にも勝る快感だってどっかの偉い人が言ってたってお前が言ったんだよな?」
「いらないところは細かく覚えてるね、アンタは。さって、質問は?」
「そのグラタンパイいらないならチョーダイ。」
「それは質問と言わねぇよ。」
作品名:世界は今日も廻る 作家名:雪都