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世界は今日も廻る

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どこにでもあるチェーンのドーナツ屋。
珈琲のカップ片手に急な階段を上がる、約束の時間までまだあるから、ドーナツは食べない。先に食べると怒られる。
クリーム色に塗られた階段を上がって三回折れると、そこは喫煙席。
狭い空間に無理やり椅子とテーブルを並べてあるような、いかにもな感じ。
このご時世煙草を吸う人間なんて少ないもので、ほぼ指定席と化している窓際へテーブルを一つと椅子を一つ引っ張ってくる。
薄く開いた窓から見える景色は、電線と向かいのビルの中で働く紺色スーツの人々。下に目を向ければ、見えるのは道路と行きかう人々。薄紫に暮れる空を空気を堪能しつつ、珈琲飲んで煙草を吸う。煙と珈琲は同じ場所から入るのに、自動で別々のものになる。とか言ってた大学の助教授は誰だったか。確かミステリの登場人物。
可愛らしいミニスカートの制服の女の子が、珈琲のポットを持ってくる。お代わりを頼んで煙草二本目。
ふと気づいて、携帯を取り出す。ストラップが揺れる。これは確か、この間出かけたときに気に入って買ったものだ。珍しく服を買いに行ったら、どっかのショップで売ってた。シルバーのプレートに掘り込まれた黒猫。黒猫の部分はブラックオニキスを使い、プレートに嵌め込んでいると店員に説明された。
ぴぴっとメールを一通。昨今の若者は親指一本で小説を書くらしいけど、とても真似できないね。
ぴぴっと戻るメール。15とそっけない数字だけ。まぁ内容が伝われば過剰に装飾する必要はないと思うけど、待ち合わせにすでに二時間遅刻してるって自覚はないのかね。待ち合わせ時間から一時間半遅れた自分も言えた義理ではないけど。
もう一本煙草を咥えて、回ってこないお姉さんを待つのもなんだからレジへ行って珈琲のお代わりでも貰ってこようかと思うけど、立つのが面倒。いいや、念じてみよう。繰るかもしれない。
「お待たせっ!!」
ボチボチ帰ろうかと思った頃合で、ドーナツを沢山載せた男が現れる。
無言のまま、空のカップを渡せば心得ていると言わんばかりに新しい珈琲・・・かと思いきやカフェオレ、この登場はちょっと新しいぞ。
ついでに渡されたオールドファッション。
「待った?」
「・・・。」
「いやぁ悪い悪い。出かけようと思ったら急に眠くなってさぁ、布団から手が伸びて俺を引きずり込むわけ。そんな布団と格闘してたら気づいたらこんな時間よ?マジでびびったねぇ。しかも電車が渋滞でさ、ついでに俺の家とこのミスドには時差があることを忘れててさ。いやぁ、びびったびびった。」
「・・・。」
ドーナツを食べて、煙草を吸い込む。カフェオレは甘すぎるけど、珈琲ばっかりの最近では甘いものが胃に優しいなんて幻想。むしろ、思い込みか。うん、思い込みだ。カフェオレ飲むと胸焼けしそうなんだけどな。
「ごめんなさい。遅刻して申し訳ありませんでした。」
「うん。俺が優しくてよかったね。後ちょっと待ってこなかったら帰ってた。」
「ちょっと・・って?」
「んー・・・一時間ぐらい?」
このミスド、居心地良いのだよ。窓から見える風景眺めれば退屈はしないし、こうやって無駄に時間を過ごすのは嫌いじゃない。つか、取り留めない思考を弄ぶには持って来いの場所なんだよね。だいたい、視覚から入る情報を処理する前に次の場面に切り替わる街並みなんてものはリズムの手助けになるだけで観察しようとか思わないし。
「悪かった。寝坊しました。」
「いいよ、俺優しいし心が広いから。」
自分も一時間遅刻したことは黙っておこう。本来ならお昼に集合するはずなのに、もう夜だもんね。冬は日が落ちるのが早い。つるべ落とし以上に、気づいたら真っ暗だ。情緒がないね。
「で、次は何食べる?」
「フレンチクルーラー。」
「どうぞ。」
「を、三十個。」
「止めて。それは止めて、お願いだから。見てるコッチが気持ち悪い。その細い体に無限に食物を摂取するのが趣味なのは知ってるけど。」
「そんな趣味ない。」
「エンゼルクリームで我慢して。」
「グラタンパイも。」
冗談なんだけどね。フレンチクルーラー美味しい。ドーナツ好きだけど、こーゆーべったべたに甘いのが美味しいよな。うん、美味美味。美しい味と書いて美味。読んで字の如くって感じだな。ついでに、奴の目の前にあったチョコファッションは俺が貰った。うん、美味い。
「で、どこまで出来た?」
「終わった。」
仕事の話に行くのはいいけど、口端についてるパイのカスが間抜け。優しくて気遣いの出来る俺は相手に恥をかかせないために黙っていようと思います。子供じゃあるまいし、自分で気づけ馬鹿間抜け。あ、落ちた。詰まんない。
「さっすが人間コンピューター。」
「ドッチだよ。」
「データは送った?」
「とっくに。今回の仕事面白くなかった。意外せいもなければ、新鮮味もない。ただの作業だよ、ルーティンワーク。めっちゃツマラナイ。面白くない、単純作業。」
「悪かったって。ぶっちゃけ今回の仕事はただの準備なんだよ。下準備は大事だろ?積み重ねたその結果が勝利だってどっかの誰かが言ってたじゃんね?」
「何処の誰だよ。俺はね、出たとこ勝負のギャンブラーだから。勝つって分かってなければ出ない。」
「それはただの保守派なだけね。もしくは卑怯。うんうん、卑怯ってのはカッコいいよな。自ら極悪非道の誹りを受けることを甘んじる変態弩Mって訳だ。その分だとお前は属性はマゾか。いいじゃないか、ツンデレクールビューティーの変態弩Mっての。うんうん、いい感じに卑猥ね。」
「卑猥なのはお前の頭だ。人の性癖捏造するなよ変態弩S。」
いやマジで、いい笑顔で人のことマゾだのなんだの、スゲェ誤解を招く言葉を平気で吐き出すのは、目の前のこの男が気遣いとか空気を読むとか、そんな当たり前みたいに対人コミュニケーションの上で必要だと人々が当たり前みたいに幻想を抱くスキルがぶっ千切って低水準な性。この性格で、今までどれだけの問題を起こしているのか、不本意ながらこの男と一番長い付き合いな俺が知っている。そして、それでもなお俺がこの男とコミュニケーションを取れるのは、類は友を呼ぶ。基割れ鍋に綴じ蓋って所だろうか。うん、それが正解。似たもの同士、同じ場所にいる人間。よって、そんな幻想がどれだけ幻想でなおかつ不必要化を理解している同士。だから、通じ合える。いや、通じ合う必要もない。手に取るように、相手の嗜好を思考を指向をトレースできる。本当に不本意ながら。不本意だから。
「いやぁ、やっぱりお前相手だとストレス少ない。必要のない猫を被る必要が何一つ存在しないってのはいいもんだ。」
ようやく煙草を咥えた男にライターを投げつけて、俺も一本咥える。投げつけたライターの代わりに、戻ってきたのは火の付いた煙草の先。つか、たかが煙草のオマケみたいなライターを搾取するな。
「さて、次の仕事の話をしてもいいかい?」
「合点。」
「ちょっと面倒だけど、次は対人業務だ。この人間、顔に見覚えは?」
作品名:世界は今日も廻る 作家名:雪都