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The El Andile Vision 第2章

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「――モルディ・ルハト殿。その者には、手をかけないでいただきたい。……こちらには、まだ用があるのでね」
 木立ちの間から、下生えを軽く踏みしだく音がして、一人の青年が姿を現した。
 月明かりの下で、短い銀灰色の髪が幻想的な雰囲気を醸し出していた。その姿はまさしく神話の中に登場する人の姿を借りた神々を想起させた。
 周囲に立っていた騎兵たちは、その姿に半分幻惑されながらも、警戒して青年の周りを取り囲もうとした。それへ青年は軽く手を振った。
「心配するな。敵ではない。モルディ・ルハト殿がご存知だ」
 当のモルディ・ルハトはやや驚いた表情を浮かべて、青年を凝視していた。
「……そなた――エルドレッド・ヴァーンか。とうにジェラトに着いているものと思っていたが……なぜ、このようなところに……」
 モルディの言葉に、騎兵たちは慌てて剣を引いた。
 青年はにっこり笑うと、騎兵たちの間を抜けてモルディの方へ近づいた。
「――私のことはエルダー・ヴァーンとのみお呼び下さい。何度も申し上げておりますように、その名はあまりにも目立ちすぎますので――」
 青年の口調は柔らかかったが、それでいて、そこからは強い非難と強制の響きが感じ取れた。
 モルディはひそかに鼻白んだ。
(『エルドレッド』……聖王家ゆかりの血筋を表す者に多い名か。確かに一介の塔の魔導士にしては、ご大層な名前だ。そこまでこだわるほどのこともあるまいが……本当に、ただの魔導士というだけであるならば、だが――)
 モルディは何か考え込むような様子で、僅かに目を眇めて青年を眺めた。
 しかし、口に出してはそれ以上その件については触れなかった。
「わかった。――エルダー・ヴァーン。で、なぜこいつを殺してはならんのか。こいつに何の用がある」
 エルダー・ヴァーンは謎めいた微笑を浮かべた。
「――あなたには関係のないことだが、ユアン・コーク殿もご承知のこととだけ、申し上げておきましょう。私の言う通りになさることです」
 その人を小馬鹿にしたような物言いに、モルディはむっとした様子を見せたが、それでも彼は敢えて自制した。
 ユアン・コークの名が出た以上、己の立場を考えると止むを得ないところであった。
 モルディは大きく肩で息を吐くと、捕まえていた少年からあっさりと手を離した。
「まあ、いい。どういうことかわからんが、今はそなたの指示に従おう。俺としてもあっさり殺してしまうには、少々惜しい獲物だと思っていたことだしな」
 そう言うと、モルディ・ルハトは足元を見下ろし、そこに転がる既に意識のないイサスの体に、粘着質な視線を浴びせた。