信長、蘇生せよ、この悲観の中に
二人とも人生経験は、それはそれなりに積んで来た。
この男と女には、今日に至るまでのそれぞれの人生があった。
そして、過去に一杯の傷も負って来た。
今の二人が大事と信じさえすれば、過去が捨てられる。
もっと違った人生の結末を求めて、共に生きて行けるはず。
しかしこの二人は、原点回帰を選んでしまった。
それは、人間が心の迷路に迷い込んでしまった時、原点回帰が一番良いと、二人には知恵が付き過ぎてしまっていたからだろうか。
後悔はあるかも知れない。
しかし、男と女の大人の合意。
実にお見事だ。
「私も、それが最善だと思うわ、私達の本能寺の変、すべてに封印して、私達も原点回帰しましょう」
高見沢は「そうだね」と奈美に答える。
だが、奈美の温もりが胸の中にほのかに残り、後ろ髪を引かれる。
しかし、奈美はもう決めてしまっている。
女が一旦決心してしまったその後は、その整理が実に速い。
そのためか、今はどんどんとそのプロセスへと気持ちを切り換え始めている。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊