信長、蘇生せよ、この悲観の中に
「ねえ高見沢さん、何年後かに、本能寺の地下道を発掘したいという不埒(ふらち)なオッサンが、また現れるかもよ」
奈美は、湿った心をきっぱりと吹っ切るためなのか、会話がいつものように冗談ぽくなって来た。
そして、男はいつまでも未練がましい。
高見沢はそれを見せまいと直ぐに応える。
「何年か後に、またアホなヤツが出て来て、掘り起こすかもなあ、そうしたら奈美ちゃん大変だぞ、二十一世紀のクローン・織田信長が発掘されるのだからなあ、ホント奇妙なことになるだろうなあ」
「まっ、いいんじゃない、もう私達には関係ない事だものね」と、奈美には完全に元気が戻って来た。
女が「関係ない」と口にする時、すべてがその時に終わった事を意味する。
そして男は、それに無抵抗に同調してしまうのが常。
「そうだよな、もう関係ないよな」
さらに奈美は、「だけど骨の時代判定で、二十一世紀生存と鑑定結果が出たら、みんな慌てるでしょうね」と、自分の言葉に気分を乗せている。
これに高見沢は、「ホントだなあ、後の処理をどうするか、それはその人に任せよう」と奈美の語りに合わせて行く。
こうして二人とも、いつの間にか普段と変わらぬ無責任なことを言い出しているのだ。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊