信長、蘇生せよ、この悲観の中に
高見沢にとって、奈美は一蓮托生でプロジェクトを推し進めて来た大事なパートナー。
高見沢はしっかりと奈美を見つめ、出来るだけ穏やかに話す。
「奈美ちゃん、そうだなあ、この地下道をもう一度崩して、信長の遺体を埋め戻してしまおう … 何もかも元に戻す、原点回帰 … そう、その原点回帰をしよう、それが一番良いと思うよ」
奈美はこれを聞いて、なぜか言葉を失ったようにじっと黙っている。
気性の激しい奈美からの反応がない。
静寂がコツコツと時を刻む。
一分、二分、三分と静けさが流れて行く。
そしてまだ迷いが残るような声で、奈美が呟き返して来る。
「そうね、何もかも元に戻す、原点回帰 … それって、すべてなのね … 高見沢さんは、そんな原点回帰をしたいのね」
地下道のこの静寂の中で、愁いのある女の声が響く。
しかし言葉は途切れ、それは後へと続いて行かない。
そして奈美は、最後に。
心の呻きを絞り出すかのように、一言だけ付け加えて来る。
「私達も … なのね」
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊