信長、蘇生せよ、この悲観の中に
一方奈美の方も、中年男を窮地に追い込んでみたものの、「私達、どっちもどっちだわ」と思い直し、自己制御しようとしている。
これ以上の傷付け合いの口論は不毛だと、気が巡ったのだろう。
「ありがとう、わかったわ、それで高見沢さん、具体的にこれからどうしたら良いと思うの?」
さすが奈美、大人の女性なのか口調を変えて来た。
「うーん、信長の死の現実がそこにある、しかし日経平均3万円の達成に向けて、俺達頑張って来たよね」
「そうね、二人でホント頑張って来たわ」
奈美の言葉に暗さがある。
これはきっと、高見沢も奈美も、何か終わりに近いものを感じ出しているのだろう。
高見沢は、遂に口火を切らなければならない時が来たと覚悟を決める。
そして、戸惑いを隠しながら思い切って言う。
「俺達は織田信長と、そして本能寺の変のすべてを知ってしまった、だけど結論は、悔しいけれど御破算 … すべてに封印をしよう」
奈美は、高見沢から発せられたこの「すべてに封印をしよう」という重い決意を聞いてうなだれている。
そして、しばらくしてやっと顔を上げ、特に驚いた表情も見せずに大きく頷く。
「そうね高見沢さん、本当に口惜しいけれど、私もこの信長君の二度目の壮絶な切腹に敬意を表し、本能寺の変の、この明かされてしまった真実を、このまま封印してしまうことに賛成するわ」
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊