信長、蘇生せよ、この悲観の中に
京都の祇園祭は、七月十七日の山鉾巡行をピークにして、後は後の祭りとなる。
そしていつも通り梅雨は明け、猛暑がやって来る。
京都の夏、今年はとにかく滅茶苦茶暑かった。
うだる暑さで、京都盆地は釜湯地獄。
そんな過酷な夏でも、京都には情緒がある。
鴨川の床での夕涼み。
東山の霊妙に白い月を眺めて、伏見の冷酒一献。
これがまた風流そのもの。
酔い醒ましにと、夜の花街に繰り出してみる。
河原町から祇園へと浴衣姿の女達が、昔風にしゃなりしゃなりとすまして歩いている。
京女達の夏、それは優雅そのもの。
白河の垂(しだ)れ柳を背景に、なかなか色香のある風景がそこにある。
そして八月十六日、そんな暑い盛りの古都風情だが、大文字の送り火とともに夏のすべてが燃え尽きてしまう。
今年も盛夏は残暑へと、また移ろって行ってしまった。
そしてさらに時は容赦なく刻み、今は九月の初旬。
そこはかともう秋の気配を感じる。
「ねえ、高見沢さん、今宵は何を食べさせてくれるの? 突然呼び出されて、東京からわざわざ京都へ出向いて来て上げたのよ、だからちょっと美味しいものを食べさせてよ」
夏木奈美が畳みかけるように話し掛けて来た。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊