信長、蘇生せよ、この悲観の中に
「ねえ高見沢さん、落ち着いてよ、だって今ここは人の土地なんでしょ、それに信長君はクローンよ、そりゃDNAは全く同一だけど、ホントの本当は、本人そのものじゃないもの」
奈美の鋭い視点からのこんな意見に、高見沢は「うっ」と言葉を詰まらせてしまう。
高見沢は暫らく気持ちを落ち着かせて、「クローンに、財産所有権はないのかよ」と自問自答するように呟いた。
「だって、それが今の世の中の現実なのよ、二十一世紀のビジネス社会のキーワードは、コンプライアンス(法遵守)よ、今は法を守る事が大事と思うの、私も口惜しいけど、だから涙が出て来るのよ、ウオーン、ウアーン」
奈美はこう言って大泣きし始めた。
頑丈な石で組まれた密室。
その石蔵の密室の中で、ベッピン奈美ちゃんが年甲斐もなくワンワンと大泣きをするものだから、五月蠅くって仕方がない。
耳栓がいる。
高見沢と信長は、この予期せぬ事態をどう収拾すべきかと迷った。
「信長、お前どう思う?」
高見沢は意見を求めた。
「拙者は、現代社会の構造や仕来りも勉強して来たので、奈美姫の美しい自制心を充分理解申す、よって、今日のところは手ぶらで帰ろう、どうしたら我々がこの金塊を持って帰れるのか、また我々の財産になるのかをよく勉強してから出直して来た方が良かろうぞ、如何なものかな?」
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊