信長、蘇生せよ、この悲観の中に
そこは高さ約一.五メートルの石垣で囲まれた約二十メートル四方の広場。
天守閣の礎なのだろうか、そこには百個程度の敷石だけが残っていた。
そして信長はこんな風景を見て、突然叫ぶ。
「なーんもない!」
今にも泣き出しそうだ。
高見沢も、「ホント、何もないよなあ、ここに五層六階・地下一階の黄金の天主閣があったのか、信じられないよなあ … あーあ、兵(つわもの)どもの夢の跡か」と感無量。
すると奈美が息も戻って来たのか、横からいつものきつい調子で口を挟んで来る。
「信長君、アナタ戦国一の武将でしょ、女々しい感傷に浸っている場合じゃないわよ、壊れてしまったものは、もうどうでも良いの、わかってるわよね」
こんなけんもほろろな言葉を聞いて、信長は何も言えずにぽかーんとしてるだけ。
「信長君、これからアナタには、株価上昇プロジェクト、そう、今の悲観相場を打ち破り、日経平均を3万円に上げるお仕事、それにしっかりと取り組んでもらわないとね、さあ落ち込んでいる場合じゃないでしょ、蛇石の位置を、早く思い出しなさいよ」
信長は、こんな気合を奈美にガッツリコンと入れられて、徐々にサムライらしい精悍な面(つら)構えへと戻って行く。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊