信長、蘇生せよ、この悲観の中に
「ねえ高見沢さん、この辺りが本能寺のあったところなの? いっぱい民家が建っているし、どう表現したら良いのかなあ、生活の匂いが充満していて、言葉が出て来ないわ … ふうん、この辺りで本能寺の変が起こったのね」
奈美は、今自分が立っている場所こそが戦国の世を大きく変えた所、しかしその出来事の重さとそこにある風景のちぐはぐさで、摩訶不思議な気分となっている。
また一方、高見沢も変ちくりんな心持ちとなっている。
「そうなんだよなあ、奈美ちゃん、ちょっと不可解かな、だけど事実として、この辺りに本能寺があったんだよ、東西百四十メートル、南北二百七十メートルの広さがあったと言われているんだよ、ここに漂う一五八二年六月二日未明の気配を感じたら良いよ、こここそが、四九歳の信長が非業の死を遂げた、生涯最後の地なんだよねぇー」
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊