信長、蘇生せよ、この悲観の中に
南禅寺山門前に待つタクシーに乗り込み、高見沢は運転手に、「元の本能寺の跡地に行ってくれない」と告げた。
しかし意外にも、「お客さん、元の本能寺ってどこにあるんですか?」と尋ね返して来た。
日本の歴史を大きく変えた本能寺の変。
その本能寺が一体どこにあったのか、地元のタクシーの運転手さんさえも知らない。
テレビドラマや映画で本能寺の変のシーンをよく観る。
しかし、四百三十年前に実際に起こった現実の場所は、世の中からは忘れ去られてしまっているのだろうか。
「あのね運転手さん、憶えておいてね、四条油小路(しじょうあぶらのこうじ)を少し上がった所に、本能寺はあったんだよ、そこへ行ってくれはる」
「へえ、そんなとこにあったんでっか、えらい町中でんなあ」と運転手が驚いている。
タクシーは高見沢がナビするままに走り、そして二人は四条油小路で降りた。
そしてそれから百メートルほど北へと歩き進んだ。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊