信長、蘇生せよ、この悲観の中に
「高見沢さん、今度はね、戦国時代から明治維新へと飛びましょうよ、坂本龍馬はどうお? 梅椿図の掛け軸に、龍馬の血痕が残ってるんだって」
高見沢は、奈美からのこんないきなりの話しに思考が付いて行かない。
「ど、どうしたんだよ、奈美ちゃん、俺、もうクローンは作らないよ、後が辛いから」
しかし、これに奈美からの返事が返って来ないのだ。
しばらくの沈黙が続いて行く。
そしてその後に、奈美からじとっと湿った言葉が絞り出されて来る。
「高見沢さん、私、プロジェクトはもう何でも良いの、ただ高見沢さんと、ずっと何かで繋がっていたいだけなの、そうしないと、心の中は … ずっと悲観なの」
奈美が電話の向こうで、むせび泣いているのが伝わって来る。
本能寺の地下道。
そこには、腹を切ったクローン・信長の遺体がゴロンと転がっていた。
高見沢と奈美は、それを見ながら互いに原点回帰をしようと申し合わせたはず。
しかし今、無性に恋しい。
なぜあの時、もっと強く奈美を抱き締めてやれなかったのだろうか。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊