信長、蘇生せよ、この悲観の中に
高見沢には明るさはない。
中年男の悲哀を滲ませながら、どんどんとスパイラルに落ち込んで行く。
そして最後に、やっぱり一番好きな株式格言を力弱く、呪文のように唱えるのだった。
【強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観と共に成熟し、幸福のうちに消えて行く】
「強気相場は悲観の中で生まれ … うーん、今がその時期なんだけどなあ」
こんな高見沢の独り言を、部下の榊原が横でじっと聞いていた。
そして御丁寧にも、わざわざ高見沢にすり寄って来て、耳元で囁いて来る。
「高見沢さん、何をブツブツと愚痴ってはるのですか、知ってますよ、御不幸の理由を、株の調子がずっと悪くって、強気相場への見込みがつかないのでしょう、それって案外辛いっスよね、だけど原因は単純明快ですよ、日本に強いリーダーが現れないからですよ」
部下の榊原は、高見沢の不幸を確実に面白がってる。
高見沢は鬱陶しいヤツだなあと思っていると、榊原は得意げな顔をして、さらに性懲りもなく囁いて来る。
「だから、ちょっと希望が持てる耳よりな情報を、お教え致しましょうか?」
高見沢は無愛想に、「何だよ、それ?」と返した。
すると榊原は、生意気にもニタニタと笑いながら、どこかで聞いたような話しを切り出して来るのだ。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊