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体温

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「最近美穂から連絡がきたり、見掛けたりしませんでしたか?なんでもいいんです、教えてください……」

大学についてすぐに美穂と関わりのあった人たちに聞き込みをしたが、みんなも連絡がとれなくて困っているらしい。

ここ数日間でたくさんの人に美穂のことを聞いたが、有力な情報はなにも得られなかった。

美穂と関わりのあった人の名前がたくさん書いてある手帳を広げ、最後の名前に線を引いてそれをぼんやりと眺める。思わずため息が漏れた。

落胆していると、不意に携帯がなった。健一からだ。

健一とは中学時代からの長い付き合いで、俺と美穂が知り合ったのも健一を介してだった。

「なにかいい情報はあった?」

「全然だめだ……そっちは?」

ため息混じりにそう答えると、健一も深いため息を吐いた。

「心当たりのある場所は一通り探したけど、見付からないよ」

「そうか……」

もうどれだけ探しても見付からないような気がした。考えたくないのに、変な事件に巻き込まれている美穂の姿ばかり想像してしまう。

「とりあえず一回落ち合おわない?」

「……分かった。じゃあ、駅前の喫茶店で」

通話終了を知らせる無機質な音をしばらく聞いてから携帯を閉じ、深いため息を吐いてから喫茶店に向かった。


喫茶店の少し重い扉を引くと心地よい鈴の可愛らしい音が響いた。店内を見回す必要もなく、すぐに立ち上がって手招きする健一が目に入った。

「悪い、待ったか?」

「いや、俺もさっき来たとこ。コーヒー頼んどいたよ」

そう言うと健一は思い出したように手帳を広げて見せた。そこには走り書きしたような読みづらい文字がびっしりと並んでいて、今の俺にそれを全部読む気力なんてなかった。

「これ俺が探しに行ったとこなんだけど、全滅」

「そうか……」

「他に心当たりある場所ある?」

俺は数秒考えてから首を横に振った。

健一の手帳をずっと見つめていたせいか、びっしりと並んでいる文字がだんだんと「もう見付からない」と言う文字に変わっていく気がした。

「……悪い、トイレ行ってくる」

顔でも洗って気を引きしめようと立ち上がったが、立ちくらみで一瞬頭が真っ白になった。疲れているんだろうか。

「おい、大丈夫?」

「大丈夫だ……」

とっさに俺を支えようとしたのかこちらに伸びた手を振り払って、その場から逃げるようにトイレに急いだ。
作品名:体温 作家名:黒崎蘭子