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魔物達の学園都市

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「自慢の、は余計だけどね」
「ほっとけ」
「……じゃあね、もしアンタが力を得て、リーユンちゃんを助け出せたなら、手元に残ったその力、アンタはどうするの? 何に使うの?」
 ウズメの質問の答は、俺もまだ知らないブラックボックスを開ける鍵だ。
 その箱に入ってる力がどんなものか――その詳細を、俺はまだ知らない。だがそれでも力は力に過ぎない。神でもなければ悪魔でも無い、俺が使う俺の力だ。
 だから俺は、口を開いた。この数週間暮らしただけで俺が得た、掛け替えのない連中の顔を思い浮かべながら。
「んなもん決まってる。俺が力を使うのは、俺が満足するためだ」
「不十分。じゃあ、満足する――黎九郎が満たされるのは、どんな時?」
「かーちゃん知ってるか? 俺にはさ、友達って言える連中ができたんだぜ? そいつらと楽しく生きてくんだ。それから、もっと多くの楽しい連中に会いたいんだ俺は! だから、今の地上をぶっ壊されちゃ困るんだよ!」
 リーユンは――俺の知ってるリーユンは、ツヴァイハーである自分を嫌ってた。
 春菜先生が大切で、学園長も大好きで、自分が誤解されるのも構わずに、周囲の連中を傷つけないように気遣ってた。
 そんなリーユンを操ってるのは、きっと人類の呪いに違いない。
 だから、俺は更に続ける。
「周りが魔物ばっかだろうが関係ねぇ。自滅したアホな人類の遺志なんざ知ったことか! 俺は俺の大好きな今の地上を護る! もちろんリーユンも含めてな!」
 俺の言葉の後、ただ沈黙だけが、この室内を満たしていた。
 ……やべ、今の俺、かなりイタいヤツだと思われてたりとか……?
 俺は口元を引きつらせて、傍らに立つ春菜先生に横目で視線を送った。
 が、先生は俺の視線の先で、瞳を潤ませながら全身を震わせている。
「えーと……ウズメ……かーちゃん?」
 恐る恐る、そう呼びかけてみる。
 すると、一つだけ、深く大きなため息が聞こえた。
 実体も無いのにため息たぁどういう了見だ? かーちゃん。
「……これまた、アタマの悪い答ね〜」
 続いたのは、そんなセリフ。
 IEDの中のウズメもまた、実に情け無さそうな貌をして俺を見詰めている。
 ……うあ〜、まさかこの期に及んで、ダ、ダメ出しっ?
 一瞬、調子に乗った事を悔やむ。どうやら本格的にイタい子スか? 俺。
「……でもま、アンタのお祖父ちゃんやお父さんも、そんなノリだけの人だったし……」
「ノリだけって……それヒドいだろ、かーちゃん」
 つっても、否定出来ないとこが恐ろしいんだが。
 俺が口元を引きつらせると、ウズメが微笑んでみせた。
「ギリギリ、合格って事にしてあげる。さ、奥に行きなさい。ついさっきロールアウトしたばかりの、タケミナカタが待ってるわよ」
 ウズメの言葉と同時に、コントロールルームの壁面の一角が、音もなくスライドして開いていく。その先には、俺にとって未知だったエリアへと向かう通路があった。
 通路が姿を現すと同時に、俺の中に封印されていたブラックボックスの中身――『タケミナカタ』の各種データが流れ込んでくる。
 俺は今、この瞬間に、この地下都市の主として認められたという訳だ。
「あの……お母様? ウチ、黎くん見送ってもよろしおすか?」
 俺が通路に足を向けると、
「あら、じゃあそうしていただけます?」
 そんなウズメの返答と同時に、春菜先生が俺の傍に駆け寄ってきた。
 だが、気配だけを感じつつ、俺は振り返らずに通路へと飛び込む。そう長い通路ではない。俺と春菜先生は、すぐさまその部屋――タケミナカタの格納庫に到着した。
「あらあら、おっきな五月人形さんどすなぁ……」
 目の前に鎮座する『ソレ』を見て、春菜先生が感嘆の声を上げる。
「五月人形ッスか、コレ……」
 あまりに呑気な一言に、俺は思わず苦笑を誘われた。
 見上げれば、天井が見えないほどに高さのある円筒形の部屋。
 視線を下げれば、部屋の中央に延びる通路の下には、階下フロアの床面が見え、そこには所狭しと、目の前の鎧武者のような人型デバイス『タケミナカタ』のパーツが置かれている。
 TS―00と左肩に書かれた、十メートル級人型デバイス。
 猛禽類――いや、もっと言えばトリケラトプスという大昔の恐竜に似た頭部と、背中と腰に一対ずつ、幾つかの関節を持った細長いアームが付いている。翼もなく大空を舞うための超光速加速装置『ルー・システム』だ。
 全体的にマッシブな――それこそ鎧武者のような印象を受けるのは、ウズメが『戦闘仕様』として、全身に追加装甲を装着したせいだ。
 そして、その傍らに置かれた長砲身のリニアランチャー。
 別にリーユンと戦争をする気はないが、あのデカブツの中からリーユンを引っ張り出してやる為に、それは必要なものだと思えた。
 タケミナカタの胸部には開口部があり、そこには人一人が乗り込めるスペースと、一人用のシートが鎮座している。有人無人、どちらでも使用可能な汎用機械だが、いま俺は、コイツを『翼』として使用する。そのための仕様にウズメがしておいてくれたという訳だ。
 俺は春菜先生と共に、部屋の中央を通ってタケミナカタの胸部まで伸びている通路を進む。
「じゃあ行ってくるよ、春菜先生。リーユンは俺が必ず連れ帰るから、先生はさっきの部屋でウズメと一緒に見守ってて」
 穏やかに微笑んで、春菜先生は頷いた。
 俺はタケミナカタに乗り込むため、その胸部ハッチに向き直る。と、
「黎くん」
 そんな、俺を呼ぶ声が聞こえ、
 振り返った俺の頬に、
 そっと、春菜先生が口付けをした。
 そしてすぐに離れると、恥ずかしそうに頬を染めて悪戯っぽく俺を見詰める。
「リーユンの手前、ほっぺまでにしときますけど……ウチ、許嫁とか抜きにして、黎くんのこと大好きどすから。そやから……必ず、リーユンと一緒に戻ってきて下さい」
「あ、えっと……は、はい」
 左の頬に残る、春菜先生の唇の感覚。
 俺は自分の頬が熱を帯びていくのを感じながら、シートに座ってハッチを閉じた。
 微かな高周波を発しながら、タケミナカタが待機状態から完全起動する。
 べつに操作は難しくない。俺の脳と完全リンクしているこの機体は、俺のもう一つの身体として機能する。カメラを始め、タケミナカタの外部センサーが感知した全ては、まるで俺の肉体が感じたことのように脳内で処理される。もっとも、痛覚ばかりは除外されるが。
 だから、俺の視界とIEDはタケミナカタの物と連動し、巨人の視界として春菜先生の姿を捉えていた。
(ウズメ、出るからゲート開けてくれ)
(了解。いってらっしゃい黎九郎。気を付けてね)
 ウズメのそんな言葉と春菜先生に見送られ、俺の新たな身体――タケミナカタはゆっくりと浮き上がる。
 そして頭上のハッチが開いた瞬間、俺は地下都市から大空へと一瞬にして移動した。
作品名:魔物達の学園都市 作家名:山下しんか