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魔物達の学園都市

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 いや、降参させる、もしくは戦闘不能にするか、殺すかしか勝利の選択肢が無かった訳だから、気後れするような事じゃないし、責められるような事でもない。むしろ、リーユンを無慈悲に殺そうとしていた相手だ。情けをかけるのは筋が違うといえばその通りでもある。
 だから、これは純粋に俺の気分の問題だ。
 リーユンに『魔物と仲良く暮らしていく道』を選択させようとしていた俺が、魔物を殺してしまったのなら、俺は言葉の重みを失ってしまう。『暴走していたから仕方がない』という言い訳も使いたくない。それに――
「暴走ってあんな感覚なんだな……誰の事も分かんなくなって、獲物としか見てなかった……」
 改めて、俺はその事の恐ろしさに気が付いた。
「リーユンは、あんな恐怖と戦ってたんだよな……」
 俺は急に、リーユンに会いたくなった。
 あの時――春菜先生に襲いかかったあの時に、俺を止めてくれた二人の声。
 春菜先生の声だけじゃ、俺は止まれなかったかも知れない。
 ……いや、ちょっと待て? あの時、リーユンはあの会場に居た……んだよな? じゃあ、意識が戻ってるのか……?
 そう考えた時、

 ガンガンガンガン!

 けたたましくドアをノックする、というよりも、叩きつけるような音が響き――
「黎くん! 黎くん起きてはりますかっ? リーユン、来てませんやろかっ?」
――そんな、切羽詰った春菜先生の声が聞こえた。
 俺は即座にベッドから出て、ドアへと駆け寄る。ドアハンドルを握って開けると、そこには完全に血の気を失い、青ざめた春菜先生が立っていた。
「ど、どうかしたんスか? リーユンなら、俺の部屋にはいませんけど……」
 春菜先生の様子に気圧されながら、俺はそう訊いてみる。
「リーユン、あの子……昨日から、勝手に医務室のベッド抜け出してたみたいで……さっき様子見に行ったら、どこにもいてへんし……ああもぅ、ほんまにどこ行ったんやろ……」
 落ち着かない様子の春菜先生。俺は彼女の両肩を掴むと口を開いた。
「落ち着いて先生。俺も探すから。あ、で、その……アーウェル伯って、どうなりました……?」
「アーウェル……アーウェルは、全治三ヶ月で……今、霊樹の下にある地下墓地で静養してますけど……」
「なら大丈夫でしょ」
 俺は自分の懸念が払拭された事もあり、微笑んで見せた。
 少なくとも、それならリーユンをどうこうできるヤツはいないと思う。
「そやけど……アーウェルのシンパも多いし、アーウェルが倒されたんやから……」
「なら、リーユンより俺を狙うでしょ。倒したのは俺だし、昨日の夜は俺、多少なりとも弱ってたんだから」
 自分で言って、俺は血の気が引いていく。うん、実際にそうだったらヤバかったかも、俺。
「そ……そうどすな……」
 納得してくれたのか、春菜先生は胸を撫で下ろして一つ深呼吸をした。
 と、急に俺の顔を見て頬を紅く染めていく。
「えっと……黎くん、その……手……」
「おあっ! す、すんませんっ!」
 恥ずかしげに視線を外す春菜先生の様子に、俺は慌てて肩から手を離した。
 だが、そんな俺はどうしたことか、急激に力を失い、春菜先生に抱きつくようにもたれ掛かってしまった。
「ちょっ……黎くん……? そ、その……愛情表現は嬉しいんどすけど……明るいうちから、こない人目に付くとこでやなんて……」
 緊張しているのか、春菜先生は微動だにせず、その上で声が上ずっている。
 ある意味レアな状況で、そんな春菜先生の貌をじっくり見てみたいというのに、俺は、
 ぐぐぐうぅ〜〜……。
「……腹……減った……」
 そんな気の利かない言葉しか言うことが出来なかった。
 ピンチ。うん、ピンチだ。
 起き抜けで、さっきまで麻痺してたこの極限の空腹感は、昨日のアーウェル戦のなごり
であるのは明白だ。というのに、事態は既に、俺の予想の遥か斜め上を推移していた。
(黎九郎! リーユンちゃんはどこの地下都市から発見されたか聞いたっ?)
 不意に、ウズメが切羽詰った口調でそんな事を訊いてきた。
「あらあら、せやったら、食堂まで一緒に行きましょか?」
 俺の腕を肩に担ぎ、微笑む春菜先生。そんな彼女に、俺は真顔を向けた。
「先生! リーユンが発見された地下都市――遺跡って、どこッスかっ?」
 一瞬面食らったように春菜先生が唖然とする。
 が、俺の様子に異変を感じたのだろう。先生もまた真顔で口を開いた。
「リーユンは、C一八いう呼称の、大陸の遺跡で見つけた子どす」
「うわっ?」
 先生は俺を胸の高さに抱き上げると、食堂へと走りだす。
(C一八だそうだ)
 俺がそう応えた刹那、ウズメはそれを伝えてきた。
(戻って来なさい黎九郎! 春菜先生も一緒に! リーユンちゃんは、もう覚醒したわ! それも、アンタ以上の脅威を伴ってね!)

作品名:魔物達の学園都市 作家名:山下しんか