魔物達の学園都市
今の今まで、ただ『女』とだけしか認識していなかったその優美な顔。
春菜先生の顔が、すぐ間近に在る。
途端に、それまで俺が何を考えていたのかを思い出し、それに対する恐怖が溢れ出してきた。
「先生……俺、いま先生を……みんなをころ……んむっ」
全てを言う前に、春菜先生は俺の顔を、その豊かな膨らみの間に強く抱いた。
そうしてから、俺の耳元に優しく囁いてくれる。でもその声は、微かに震えていた。
「怖い貌して笑てはりましたえ? ……そやけど、ウチと……リーユンの声にはちゃんと応えてくれはって。おおきに黎くん、ほんまにありがとぉ……あとは、ゆっくり休んでおくれやす」
優しく髪を撫でてくれる先生の手。
やわらかなその感触が心地良くて、俺の意識は深いところに落ちていく。
そんな俺の耳に、
「勝者は東郷黎九郎! みな異存はないな? それと春菜。確約通り、お前はその少年の妻となれ。危険な存在だ。我が身内と成して、一生を監視下に置く」
「分かり……ました……」
耳慣れない男の声と、春菜先生のやりとりが聞こえた。
そして、最後に春菜先生が呼んだ男の名は――
「……ヴラド・フォン・ヴァンシュタイン公……」
その名を聞いた直後に、俺の意識は途切れた。
ただ一つ、どこからか紛れ込んできた、ひどく胸を切なくする感情と共に。