魔物達の学園都市
◆ ◆ ◆
十四歳の誕生日に、俺は初めて額の生体端末にOSを入れてもらった。
これで、いつでもどこでもウズメと通信できるし、便利なスキルパックも使える。何より勉強なんかしなくても、データベースから必要な知識を呼び出せるのが嬉しかった。
「これで、お前も一人前だな。これからメンテナンスとかも手伝ってもらうからな?」
嬉しそうにそんな事を言う親父。
「黎九郎、お前、ちっちゃい頃のこと憶えとるか? じっちゃんの言った事、憶えとるか?」
俺の誕生祝いに親父が作ったクソ甘いケーキを頬張りながら、じっちゃんがそんな事を言う。そう、ちょうどこの後だ。じっちゃんがケーキに当たって死んだのは。
えっと、なんだっけ? なんの事だっけ? すっげー大事なことを憶えてたって事は憶えてたけど、どんな内容だったかまでは憶えてない。
「親父殿、案の定わすれてるみたいだぞ、黎のヤツ」
「生体端末取り付けたからの、ハイ・ヒューマンとしての記憶も、一緒に封印されてしまったみたいじゃなぁ。ま、問題ないじゃろ」
オイオイオイ、こらジジィ。その辺が重要なんじゃねーのかよ?
「二十歳んなったら、自動的に解除されるんだったか?」
「そうじゃ。あとは、生命の危機に陥った上でじゃなぁ――なんじゃったかの? ……うっ?」
「……親父殿、どうした?」
言いつつ、親父が苦しげに胸を押さえるじっちゃんの傍に寄る。
「うむぅ〜、残念ながら、ワシゃここまでのようじゃ……黎九郎、じっちゃんの言いつけ……ちゃんと、守るんじゃぞ……?」
今思えば、あの歳で、かつあの体格で大食漢だったのが死因だった気もするが、当時の俺は本気で悲しかったんだぜ? じっちゃん……。
でも、そっか。『ハイ・ヒューマン』ね。略称はHH。
そして『ツヴァイハー』。これも、HHをドイツ語読みしただけの事だ。
俺はリーユンと同一種で、人類は俺が知る限り滅亡してたって訳だ。そりゃ、ウズメも必死に隠すよな。エラー吐いてるフリしてさ。
なぁウズメ? お前だろ? 俺にこんな記憶見せてんのは。
(あら、バレちゃったか。出来れば黎九郎には、まだハイ・ヒューマンとして覚醒してほしくないんだけどね。十中八九、暴走するから。で、ここで提案。このまま死ぬのと、暴走して周囲の仲良しさんたち皆殺しにするの、どっちがいい?)
大したサポートAIだよな、お前って……。究極の選択じゃねーか。
でも、んなもん決まってる、死んで後悔しないより、生きて後悔した方がいいだろ。
十中八九って事は、暴走しない可能性だってあるんだろ? それに、俺が暴走したとしても、うまく逃げてくれるかもしれないからな。
(ん〜、それもそうね。正確にはその可能性は一パーセントも無いんだけど。まぁ、黎九郎がそう望むなら、いっか。じゃあ、覚醒条件は二つ。一つは瀕死であること。これはもう間もなくクリアできるわね。で、もう一つが――)