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魔物達の学園都市

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四章 吸血鬼と決闘するだけのカンタンなお仕事です



 あれから数日が経ち、俺は放課後の教室で、窓からの景色を眺めていた。
 教室は後ろの方が高くなっているから、ミノの席に座ると、けっこう眺めがいい。
 木立の上からグラウンドが見えているが、そこには既に多くの観衆がひしめき合っている。俺は、あと数十分後に、そこで決闘をするワケだ。
 うん、多分、十中八九どころか百中九十九くらいの確率で血祭りにされる。だって、アーウェルに対して、ALSの効果ないんだもんよ。
 あの晩の出来事から今日まで、まだリーユンの意識は戻っていない。
 怪我はもう治ってるらしいんだが、意識だけが戻らないらしい。
 まぁ、それも心配なんだけど、今日の決闘は、それ以上に気にかかる事が山ほどある。
 まずは、主賓としてヴラド公が来るという事。
 俺は初対面だったりするワケなんだが、そのヴラド公が今日の件を面白がって、決闘の勝者に色々と『賞品』を付けたんだ。
 その内訳は、まずは『リーユンの命』。俺が負ければ、容赦なく一緒に殺されるらしい。
 もちろん、春菜先生とか学園長は強く反対したんだが、ヴラド公も相当の頑固者らしく、使者として派遣された代理人は、絶対に取り下げたりはしなかった。
 ……春菜先生、泣いてたよな。
 声を上げて泣き崩れた先生の姿を見て、俺は本当に春菜先生がリーユンの事を愛してるんだと思った。で、ちょっとリーユンが羨ましかったりして。
 それから、次に『春菜先生』。この決闘に勝った者は、春菜先生の婚約者になるんだとか。
 まぁこれは、アーウェルが勝てば何も変化はない。が、俺が間違って勝っちゃったら大変なことになる、って事だ。
 で、ヴラド公は嫌味ったらしく今日の春菜先生にウェディングドレスを着せてるんだとか。
 あと、俺が勝てば、何やら騎士勲爵が手に入るらしい。つまりはナイトの称号ってヤツね。つか、ぜんっぜん嬉しくねぇ。食い物の方がずっとマシだ。
 とはいえ、ヴラド公が提示したそれらの条件から、彼の真意も少しは見えてくる気もした。
 つまり、ヴラド公は俺までツヴァイハーなんじゃないかって疑ってるんだろう。
 一見、勝利の目のない俺には関係のない『賞品』ばかりに思えるが、見方を変えれば、万が一、俺がアーウェルを倒せる力量を持っていた時の『ご機嫌取り』とも考えられる。
 逆にアーウェルの立場で考えたなら、『人間ごときに負けたら、春菜とは結婚させん』というペナルティとも言えるだろう。アーウェルとしては、『勝って当然』な相手なんだから。
「黎さん……準備よろしくて?」
 不意に、教室の入口から羅魅亜の声が聞こえた。
「ああ、迎えに来てくれたのか。ありがとな」
 そう言って俺は立ち上がり、羅魅亜のいる入口に向かう。
「……さ、エスコートして差し上げますわ。お手をお出しになって?」
 不意に、それまで複雑な貌で俺を見ていた羅魅亜が、悪戯っぽく微笑ってそう言った。
「逆じゃねぇの? こういうの」
「あら、ではお願いしますわ」
 俺の言葉にそう返し、羅魅亜は悪びれもせずにほっそりとした手を差し伸べてくる。
 その手を取った時、俺は彼女のその様子に気付いた。
 ……震えてるのか……。
「……ほんと、お前っていいヤツだよな? 心配すんなって」
 説得力のない俺の言葉。「絶対勝つからさ」と、そこまで言葉を繋げられない。
「そ、そんな事ありませんわよ? ワタクシ……ウメハラさんが認めた黎さんの勝利を信じておりますもの。むしろ、黎さんこそ緊張してらっしゃるのではなくて?」
 矢継ぎ早にまくし立て、精一杯の虚勢を張って見せる羅魅亜。
 ウメハラに認められるとどうして勝てるのかは良く分からないが、確かに俺は緊張している。
 ただ、どういう訳か、死に対する覚悟は出来てるらしく、それに対する恐怖はない。いや、それはただ単に目の前の『死』を直視する自覚が持てないでいるだけなのか。
 それでいて緊張しているのは、俺の敗北がそのままリーユンの死に直結してしまうからだ。
 ただそれでも、俺はまだいいのかも知れない。彼女の死を、直接見ることはないだろうから。
 それより、そうなった時に、俺よりも心に深い傷を負う人がいる。俺の敗北をその目で見て愛娘の死を決定づけられ、その死までも見届けなければならない春菜先生だ。
 そう思った途端、急に全身を震えが襲ってきた。
「やっぱ、怖いわ俺……負けたらリーユンが死ぬし、春菜先生にも申し訳ないし……」
 精一杯冗談っぽく笑みを浮かべてはみたが、震える声までは隠せない。
 その刹那の事だった。
「んんっ?」
 不意に俺の顎に両手を添えて、羅魅亜が俺の唇に自分の唇を重ねてきたのだ。
 な、何を……?
 柔らかく、暖かな女の子の唇。
 瑞々しくて、皮膚そのものが吸い付くような感触。
 俺は、未知のそんな感覚に、思わず、息をすることすら忘れてしまう。
「……は……」
 ひとしきりの口付けの後、羅魅亜は唇を離すと小さく息を吐いた。
「あああ、あの……羅魅亜っ……さんっ……? なな、なんスかいったい……?」
 頬が上気して、声が上ずる俺。みっともない事この上ない。
「リーユンの為に緊張してる黎さんが憎たらしくて。……せめてリーユンより先に、唇を奪っておこうかと思いまして」
 頬を染め、羅魅亜はくすっ、と悪戯っぽく笑う。
「……ワタクシから、せめてものお手伝いですわ。どれだけお役に立てるかは分かりませんけれど」
 再び俺の手を握り、羅魅亜が進み始める。
「えっと……その、サンキュ」
 一応礼を言って、俺も歩を進めていく。羅魅亜なりに、俺の緊張をほぐしてくれたんだろう。
「黎さん……ここにも……ううん、他にも大勢、黎さんのお帰りをお待ちしている者がいるという事……憶えておいてくださいまし」
 羅魅亜の心遣いがありがたい。彼女の言葉で、俺はようやく覚悟が出来た気がした。
 どっちみち、降参するという選択肢は有り得ない。
 なら、あとはもう、勝つしかないじゃないか。
作品名:魔物達の学園都市 作家名:山下しんか