魔物達の学園都市
◆ ◆ ◆
夜風が、風呂上がりの肌を優しく撫でていく。
三つ編みのクセの付いた長い黒髪。
髪色と対照的な白い肌。
女子寮の屋根の上で、水色のパジャマに身を包み、リーユンは月を見ていた。
蒼白く照る満月が、やけに物寂しく映える。
「どうして……こんなに苦しいんだろ……」
きゅっ、と下唇を噛み締めて、リーユンは呟いた。
ツヴァイハーである自分。
魔物でもなく、普通の人類でもない歪な存在。
長く魔物の社会で暮らしてきて、それを嫌というほど思い知らされた。
だから――
「……黎九郎……」
呟いて、抱えた膝の間に顔を埋める。
心の中で、刻一刻と膨らんでいくその名。
彼を初めて見たときに、リーユンは何かが腑に落ちたのだ。それまで一度も出会ったこともない、自身の創造主。彼がそうではないとしても、彼の仲間が自分を創った。
だからか。彼が気になって仕方がないのは。
出逢いは最悪だったけれど、それでも、自分にないものを沢山持っている彼が羨ましくて仕方がなかった。
友達を作らず、いつの間にか大好きな母とも距離を取っていた自分と違って、彼は誰にでも気さくで、感情が豊かで、そしてお節介なほどに優しかった。
あんな風になれたなら。
始めはただ、そんな憧れにも似た想いを抱いていただけの事だったかも知れない。
でも、今は。
羅魅亜と楽しそうに話をする彼が嫌で、
娘である自分以上に、母――春菜を気遣う彼が嫌で、
でも、一番嫌なのは、そんな風に思う自分だと気付いてしまった。
「ツヴァイハーなんて……嫌だよぉ……」
膝に顔を埋めたまま、リーユンはそう呟いた。
大好きなこの世界を壊してしまう存在。リーユン・エルフ。
今も、脳裏に聞き慣れた、
聞き飽きた、
もう、聞きたくない声が響く。
(リーユン、我らが娘。さぁ、我らの願いをかなえておくれ。我々人類に、光に満ちた地上の世界を。もう一度――)