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魔物達の学園都市

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    ◆ ◆ ◆

 ……どうしてこんな状況になってるんだ?
 十分後、俺は春菜先生の部屋で食卓を囲んでいた。
 十二畳ほどの広さの、こざっぱりとした和室。
 そこにあるのは化粧台と事務机、その上に置かれたパソコン、それから食卓として機能している四角い座卓と、円くてデカい桶が置いてある。見た目、材質的には桐の様に思えるんだが。
 と、俺はそこでふと思い出した事があった。
――あと、寝る時には棺桶に入るって言ってたな――
 先日聞いた、ミノの一言。それと、
――春菜先生、桐製の棺桶は悪い虫がつかなくていい、とか言ってましたけど――
 その後に聞いた羅魅亜の言葉。
 ああ、うん、これはつまり、春菜先生のベッドというワケか。
 思わず口元が引きつり、俺は当然であるかのように納得してしまっていた。
 洋風のカクカクっとした長い棺桶じゃなく、和風テイストな円筒形というあたり、いかにも春菜先生らしい。
 まぁ、鏡台については、『鏡に映らない吸血鬼に必要なの?』という問題は、ひとまず置いておくことにする。
 ちなみにこの部屋は男子寮と女子寮の間を結ぶ、渡り廊下の中間に位置している。ここは本来管理人室で、つまり春菜先生は、男子寮と女子寮の管理者でもあるのだ。
 とまぁ、それはいいとして。
「……食べないの? 黎九郎」
 相変わらず感情の読めない貌で、リーユンが言う。彼女もまた、休日の私服姿だ。
 水色のチュニックブラウスとロングスカートという組み合わせは、華美過ぎず地味過ぎず、清楚で可憐。普段の制服姿よりも、リーユンを『女の子』に見せている。
 一方で、メガネと三つ編みは普段どおりなワケなんだが、まぁ、それはそれでいいか。もっと別な彼女も見てみたい気もするけど、それもまた良し、だ。
 そう。ナニユエか、いま食卓を囲むのは、俺と春菜先生とリーユンの三人だったりするのだ。
 春菜先生の部屋の前まで来たときに、女子寮の方から歩いてくるリーユンとばったり出会い、そのままみんなで昼食、となったワケなんだが。
――今日、食堂休みだから、黎九郎、おなか空かせてるんじゃないかと思って――
 というリーユンの気遣いで、食卓には春菜先生が作った分と、リーユンが作ってきた分の料理が、はみ出さんばかりに並んでいる。
 先日の更衣室での一件があって、今の今まで謝る機会も無かったりしたワケなんだが、そんなリーユンの気遣いに、実はとっても感動してたりする俺がいる。
 とはいうものの、それはそれ。気持ちとは裏腹に、現実は過酷だったりするワケで。
「あ、ああ、うん、いや、もちろん食べるけど……」
 ……食い切れるかな? これ……。
 食卓の料理の数々に、俺は空腹とは別の意味で生唾を飲み込んだ。
 まず、春菜先生のは洋食。
 ボンゴレ、サラダのサンドウィッチ、コンソメスープに子羊のローストなどなど。どれも美味そうだし、一つ一つ手間が掛かっているのが良く分かる。
 それに対しリーユンのは和食で、しかも重箱入り。
 水菜の胡麻和え、ネギ入りのダシ巻き卵、茶碗蒸し、ゼンマイのおひたしに鶏肉の竜田揚げ、などなど。こちらもまた、相当に手間がかかっているだろうし、やはりどれも美味そうだ。
 だが。
 だがしかしだね?
 どれもすぐに食ってみたいものばかりだってのに、この空気はなんなんだろうか? 微笑をたたえる春菜先生と、無表情ながらに、俺の手元をガン見しているリーユン。例えて言うなら、龍と虎が睨み合いつつ、共通の獲物を狙っているかのようなこの空気は。
 箸が動かせねぇ……。
 物事『初めが肝心』と云う。
 だとするなら、この『初め』を俺がしくじると、いったいどんな仕打ちが待ち受けているんだろうか。
「……リーユンちゃん? ウチら見てたら黎くん食べにくそうどすさかい、ちょっと後ろ向いてましょか?」
「……うん……」
 春菜先生の提案に、二人同時に俺に背を向ける。
「……ええっと……頂きます」
 一言呟いて、俺はまず、春菜先生のボンゴレに手を伸ばした。
 まずは炭水化物。これを補給しないと始まらない。麺類はまさにうってつけの食材だ。
 しかし、俺の口にそれが入った刹那、電光石火のスピードで目の前の二人が振り返った。
 アサリの旨味が口中に広がっているはずなのに、味を感じないのは気のせいか?
 俺は口元からはみ出たパスタを吸い込みながら、ほとんど噛まずに飲み込んだ。
「……んっ!」
 春菜先生は小さくガッツポーズ。
「……くっ!」
 リーユンは何故か軽く落胆している。いや、リーユンの『軽く』は『かなり』と同義だ。
「……あの……なに?」
 俺は、彼女たちがワカラナイ。
 何を考えているのかがワカラナイ。
 俺が男だからか?
 う〜ん、ナゾだ……。
「じゃあ、順番が決まったみたいだから、黎九郎、次は私のも食べて」
 言って、リーユンが相変わらずの無表情で、俺の方に重箱を傾けて差し出してくる。
 俺は、リーユンが放つプレッシャーで、コレは既に『宇宙規模で揺るがせない決定事項』なんだと悟った。
「あ、ああ、じゃあ、この卵焼きを……」
 リーユンの無言のプレッシャーに気圧されつつも、俺はダシ巻き卵を口に運ぶ。
 あ……美味い……。
 口中に広がるダシの旨味と、柔らかな卵の食感。
「……おおぅ……」
 どうしてだろうか。視界が歪む。
「……黎くん……どないしはったんどすか……?」
 春菜先生のその言葉で、俺は我に返った。
「いや、あの、なんか……なんだろ?」
 今の心境を、俺は上手く言葉にできない。複雑な想いが渦巻いて、整理しきれないのだ。
 だがそれでも、一つだけ言葉を選ぶのなら。
「なんか……懐かしい、って気がして……俺……」
「……そうどすか……」
 春菜先生は、俺の言葉に微笑み返した。
 でもそれは――
 なんだろ……?
――先生の笑顔は、どこか寂しげに見えたんだ。
作品名:魔物達の学園都市 作家名:山下しんか