魔物達の学園都市
◆ ◆ ◆
「オラ、ぼぇ〜っとしてねぇで、早く運動着に着替えやがれ」
そう言いながら、ごり、と音を立て、ミノが俺の頭を鉄下駄で踏んだ。
「ってぇなバカヤロー! 人の頭蓋骨にミゾ作ってそこにナニ流し込みてぇんだよコラ!」
「やかましい! 団体行動を乱すヤローは許されねぇんだよ! なぁウメハラ?」
言って、ミノがウメハラを肩に乗せる。つか、キミたち実はナカヨシでしたか?
しかしどうでもいいが、何着ても規格に満たねぇんだな、この殺人妖精は。
俺はウメハラの風体をスジ目で見ながらそう思った。制服もブカブカだが、運動着であるポロシャツ一枚で足元まですっぽり隠れるウメハラは、ある意味で究極のエコかも知れない。
それに引き換え、ミノは全身の筋肉でシャツと半ズボンがピッチピチだ。ヤケにセクシーだなオイ。見たくねーけど。
と、不意にウメハラの視線と俺の視線が合った。
やんのかコノヤロー。
危機感から俺が身構えると、ニヤリ、と、ウメハラがいつもとは質の違う邪悪な笑みを浮かべた。
つか、質が違うだけで、邪悪なのはいつもと変わらないし、キモいのも普段に輪をかけてるワケなんだが。
まぁ、他に表現を探すとするなら、スケベ臭い? って辺りが適当か。
で、気が付けば、ミノまでがにんまりとした笑みを口元に浮かべている。
まさか俺、間違った大人の階段登らされるんじゃねーだろうな?
思わず、冷たいものが背筋を駆け下りていく。
こんな時には三十六計。えすけーぷ・つー・安全地帯って方向で考えてみようかね。
「え〜っと、じゃあ俺、先にグラウンド出てっから」
言って、そそくさと背を向けたとき、
「ふっふっふ、黎九郎クン、観念するんだな。オマエを逃がすつもりはねぇ」
そう言って、ミノが俺を羽交い締めにした。
「うわぁ! や〜めぇ〜ろぉ〜! 俺にそんな趣味はねぇんだよ!」
「バッカおめ〜、そういうヤツほどハマるんだよこういうコトはよ!」
「キキキキッ! そのトオリでゲスヨ!」
正に魔物! 俺の自由を完全掌握したミノと、奇怪な笑声を発するウメハラ。
俺の言う事なんぞ、もはや聞く耳持っちゃいねぇ! ああ、俺の青春よサヨウナラ! じっちゃん、俺はどうやらアブノーマルな世界に連れていかれるそうデスよ!
「うわ〜ん! ば〜か〜や〜ろぉ〜〜っ!」
叫びも虚しく、俺は他のクラスメートに見送られ、人気のない場所に連行されたのだった。