魔物達の学園都市
◆ ◆ ◆
カフェテリアの雑踏の中で、俺は飯を食いながら、リーユンと話をしていた。
一方のリーユンは、相変わらずグラスの赤い液体を飲んでいる。
最近解ってきた事だが、女の子という生き物は、俺たち男より小食だ。まぁ、春菜先生の娘であるリーユンと俺の食事を単純には比較できないが、周囲で飯食ってる奴らを見てもそう思う。
「よくそんなんで足りるよな、お前」
「……毎日言ってる……」
俺の言葉が気に入らないのか、ストローから口を離し、リーユンが不満そうに呟く。とはいえ、口調こそ不満そうだが、相変わらず無表情だ。
「いやぁ、俺だったら絶対腹減るなぁ、と思ってさ。ところで俺、この先もずっとお前と一緒じゃなきゃメシ食えないの?」
「さぁ? お母さ……春菜先生の指示だから。私には分からないけど……やっぱり、嫌?」
あれ?
一瞬、本当に一瞬のことだったが、俺はリーユンのその変化を見逃さなかった。
彼女の貌が、微かに曇ったのだ。
それは、ここのところ一緒に昼飯を食っていた俺だから、気付いた事だったかも知れない。
――やっぱり嫌?――
リーユンは確かにそう言った。俺が――いや、俺も、羅魅亜やミノと同じように自分を見ている、と、そう思っているんだろう。
別に、俺は他の連中と違ってリーユンは嫌いじゃない。カタブツなのは知ってるし、春菜先生とは違って表情に乏しいのも分かってる。
むしろ逆に、どういう訳かは分からないが、リーユンは一緒にいて落ち着けるヤツだとすら思っている。まぁ、羅魅亜やミノにとっては、その逆なんだろうが。
だが、そんな思いとは裏腹に、ふと俺は、意地悪な質問をしたくなった。あの病室からこれまでで、リーユンの俺を見る目がどう変わっているのか知りたくなったのだ。
「そういうお前こそ、いくら春菜先生の指示だからって、嫌じゃないのかよ。ヘンタイなんだろ? 俺」
ヘンタイ。自分で言ってて胸が痛ぇ。
しかし、それ以上にリーユンの変化を期待している自分がいる。
すると、ふとリーユンは目を伏せ、喧騒の中で微かに口を開いた。
「……嫌……よ……」
それを耳にして、俺は苦笑した。そして、この言葉を言わなきゃならない気がした。
「お前さ、クラスの奴らから誤解されてると思うぜ? カタブツなのはしゃーないけど……もっと、なんつーかこう、色々話したらどうよ?」
刹那、ガタン! と椅子を鳴らして勢い良く立ち上がり、リーユンは俺を睨みつけた。
「そんな事知ってるわ! でも私はこれでいいの! 今が一番いいのよ! 知ったようなこと言わないで! 私のこと、なんにも知らないくせに!」
「あ〜、いや、その……」
唖然とする俺を残し、リーユンは足早に立ち去って行く。
「あ〜……また地雷踏んじまったのか……」
俺は軽口を叩く自分の口を引っ張ってみる。
でも、今日の会話で何か収穫があったとするなら、確かにあの時、探知スキルをアクティヴにして、俺の耳は聞いたのだ。リーユンの呟きを。
――嫌じゃないよ――