魔物達の学園都市
そしてワラキアのヴラドとは、つまり竜公ヴラド二世の息子、ヴラド三世の事だ。
彼はまた、ツェペシュ――串刺し公とも呼ばれ、自国に侵攻してきたイスラム教徒を容赦なく串刺しにして、街道の両脇に並べて見せしめとし、敵軍の恐怖を煽った領主に他ならない。
だが、彼は決して暴君ではなかった。外敵に対しては無慈悲に徹底した虐殺を行った彼は、しかし地元ではむしろ、外敵を退けた英雄の扱いでもあるからだ。
彼はその後の運命に弄ばれ、最愛の者を失い、神を呪って吸血鬼になったという話だが。
まぁ、そういう伝説……なんだけどさ? なんとなく、胡散臭いんだよな。
俺はそんな事を思った。『吸血鬼になった』のなら、元は人間だってことだ。
でも、それ以降に別な『真祖』は殆ど出ていない。真祖になる方法があるのなら、真祖の家系がもっと多くたっておかしくないだろうに。
となれば、これは俺の仮説だが、彼は『ワラキアで吸血鬼になった』んじゃなく、『元々吸血鬼だった彼が、ワラキアを治めていた』んじゃないのか? だとするなら、領民に慕われていたというヴラド三世は、ワラキアでは人間と上手くやってたって事で。
そんな事を考えていると、
「はい、正解どす。ほな、時間も迫ってますけど最後に人類代表、黎くん」
いきなり当てられて、俺は焦った。
「は、はいっ?」
奇妙なトーンで返事をして立ち上がる俺。
「黎くんは、人類が衰退した原因は、何やと考えてはりますか?」
不意な質問。だがそれに対する答を、俺は既に持っている。それは、じっちゃんに繰り返し教えられた事だ。愚かな人類の教訓として。
「欲……だと思います。際限のない、果てしない欲が地上を荒廃させ、結果、人類を衰退させた。俺はそう教えられましたし、その通りだと思ってます」
「そうどすか……ほな黎くん? もう一つ、キミは……もしキミが、魔物を地上から一掃出来る力を持ってはったら、どないしはります?」
「……へ?」
続いた質問に、俺は面食らった。
質問の意味が分からない。仮に一掃すると答えたなら、俺は即座に魔物達の敵だ。そんな答を言えるはずもない。だが、真摯な春菜先生の眼差しが、俺にいいかげんな答を許さない。
「あの……」
言いかけて、俺は口ごもる。
一掃なんてしないと言えば、それで済む話ではある。でも、これはそんな単純な問いかけじゃない様な気がした。
そう、『どうして一掃しないのか』という理由を、春菜先生は求めているんだと思う。
すると、俺の困惑を見たからか、くすっ、と、不意に春菜先生が笑った。
「答えへんでもよろしゅおすえ? 答は黎くんの胸の中にあれば、それで。……では、今日の授業はここまでとします。次は魔暦五一七年、第三次血族間紛争と現体制への移行について」
教卓の上で資料を揃え、春菜先生は教室を出て行く。それと同時にチャイムが鳴り響いた。
俺の中にナゾナゾじみた言葉を残し、こうして、俺にとって初めてとなる、春菜先生の授業は終わった。