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てっしゅう
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「新・シルバーからの恋」 第十章 希望

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なんということだ。信じられない気持ちで悦子からの知らせを聞いていた。行則は美雪の顔色の変化を見て、「どうしたんだ?」と心配してくれた。
「友達が亡くなったの。今夜通夜に行きたいけど構わない?」
「当たり前だろう、そんなこと。よく知っている人なのか?」
「部活の先輩だった人、淀川中学の」
「そうか、まだ若いだろう?」
「悦子さんと同級生。だから剛司さんや恵子さんと同じなの」
「ふ〜ん、残念だろうな奥様も・・・じゃあ今日はもう戻ろう。準備が要るだろうしな」
「はい、ありがとう・・・信じられない気持ちなの」
そう言うと、言葉に詰まった。
「美雪、人はいつか死ぬ。俺も悲しいことを経験した。平川に助けられて今がある。亡くなった方の奥様に何かしてあげられることがあったら、手助けしてあげなさい」
「あなた、そうね。お姉さんにも話してみる・・・」

駐車場に停めてあった車に乗って二人は自宅へと急ぐように戻っていった。美雪は悲しい思いをした自宅での出来事より、中学のときのことを思い出していた。忘れかけていたが、徹とのちょっとした事件が蘇ってきた。

ちょうど今頃の夏のことだった。夏休みに入っていて、徹は美雪に誘われるままに淀川の渡しを使って対岸に遊びに行った。雲行きが怪しかったが、直ぐに帰れば良いと渡しに乗ったが、岸に着く頃には雨が降り出してしまった。船頭さんに言ってそのまま帰るから乗せて、と頼んだが、雨だからもう漕がないと断られ困ってしまった。

仕方なく着いた岸から町に出て雨宿りをして船が出る時間までじっとしていた。夕方近くになって雨が止み、慌てて岸辺に戻り渡しに乗って帰ってきた。美雪が着ていた白いブラウスは雨で濡れて下着が透けて見えていた。動揺していたから気付かなかったが、船を下りて歩き出したころに気付き手で隠しながら美雪は家に戻った。

同じように徹もびしょ濡れだったので、美雪は乾かすようにと家に入るように誘った。両親が今日は夜遅くまで留守であることを聞かされていたから気を許したのであろう。トイレに行きたくなって徹は探した。風呂場の前まで来たとき美雪が身体を拭いているのが見えた。立ち止まって気付かれないように我慢してじっとしていた。Tシャツを羽織って出てきた美雪と目が合った。

「先輩ここで何してるの?・・・見てたの着替えていた時」
「見てないよ。トイレに行きたくて来たんだよ」
「うそ!見てたでしょう・・・」
「見たくなんかないよ。それより早くどいてくれ、洩れちゃうから」

用を足して出てきたら、美雪は泣いていた。
「どうしたんだよ?泣いたりして」
「先輩は私のこと子供だって思っているんでしょう?」
「そんなことで泣いていたのか?子供じゃないのか?」
「私のこと見たんでしょ?子供だった?」
「見てないよ。同じこと聞くな」
「川野悦子さんとは比べものにならない?」
「何言ってるんだ!川野が勝手に好きなだけだよ」
「じゃあ、美雪を好きになって・・・美雪はずっと先輩のこと好き」
「おかしいぞおまえ・・・帰るよ、変なこと言うなよ」

徹は怒って中途半端な乾かし方で出て行った。直ぐに美雪は追いかけたが、「帰れ!」と怒鳴られ立ち止まってしまった。
「嫌われてしまった・・・」悲しさがこみ上げてくる反面、
この日から美雪の徹への思いはより強くなっていった。

5時半ぐらいに待ち合わせして美雪は悦子と一緒に葬儀場に行った。恵子や伸子、剛司も来ていた。

「みんな元気だった?こんな事でまたこうして会うなんて」恵子が話しかける。
「恵子、久しぶりね。私ね今も信じられないの・・・剛司くんから電話もらって・・・何かの間違いだって思ってしまったから」
「そうね、あなたには思い出の人だものね・・・美雪さんも」恵子が言った「思い出の人」の言葉は忘れていた過去を二人に思い出させていた。美雪は悦子に自分が経験した徹とのことを話した。

「そんなことがあったの・・・知らなかった。やっぱり徹くん、あなたのこと好きだったのね・・・今思うと悪いことをしたように感じる。美雪のこと好きだった剛司くんをけしかけたりして・・・」
「ううん、私の方こそ・・・お姉さんが羨ましかった。子供にしか見られていなかったから」
「違うのよ美雪・・・きっと恥ずかしかったからそういう態度を取ったんだと思うよ。あの頃はお互いに憧れていた人だったのよね・・・現実は違うように感じたけど、こんなに早く亡くなるなんて、悲しいわね」
悦子は今の幸せも過去に徹とのことがあったからだと思っている。今日より後にまた思い出すような事はないだろう。いつしか年を取って記憶が薄くなってきたら、会うこともないから完全に記憶から消えてしまうかも知れない。

通夜が始まった。読経の中一人ひとりの焼香が始まる。剛司は感極まって、「徹!待ってろ、もう直ぐ俺も行くから・・・また一緒に遊ぼうな」その声は多くの列席者の涙を誘った。

帰り道同級生の4人と美雪は駅前のエリーゼに寄ってお茶をした。美雪が始める喫茶店の話しに驚きながら、オープンしたら通うから、とみんなは言った。また明日からいつもと変らない日が始まる。徹が死んだこともいつの日か忘れてしまうのだろうか・・・

翌日の本葬に美雪と悦子は出席した。もちろん剛司も恵子も伸子もいた。美雪と悦子は火葬場まで付き合い、最後の別れを惜しんだ。

「副島さん、平川さん、本当に亡き主人のために良くして頂きありがとうございました」妻の昭子と娘の留美子は頭を下げた。
「いいえ、お気遣いには及びません。奥様、大丈夫ですか?何かお手伝いさせて頂けることがありましたら、ご遠慮なく申し付けてください。主人からもそう申し付けられておりますから」
美雪は手を差し伸べた。
「副島さん、ありがとうございます・・・」優しさが嬉しかったのか、昭子は泣き出してしまった。傍に居た娘が、身体を支えた。

「ねえ、座りましょう。迎えが来るまでお話しさせて下さい」美雪はテーブルと椅子のある場所に誘った。
「はい、恥ずかしい所をお見せしました。お許し下さい」
「ううん、構いませんのよ。ねえ、昭子さんってお呼びしますけど、徹さんは前から悪かったのですか?」
「いえ、そのような気配はなかったんです。夕方仕事から帰ってきて気分が悪いからと横になって直ぐに意識が無くなったようで・・・救急車が来て、隊員さんが一生懸命蘇生なさってくれましたけど、病院に着いた時はもう心配停止でした。本当にあっという間でしたから・・・悲しむ余裕が無くただ呆然としていました」
「そうでしたか・・・そんなに急にでしたの」
「苦しむことも無く亡くなりましたから、それだけが救いなのかって思うようにしています。これからの事は全く考えられません・・・私も今の仕事が続けられるかどうか自信がありませんし」
「そうですよね・・・お辛いですね。少し落ち着きましたらまた伺います。お話聞いて頂きたい事もありますので・・・これ携帯の番号です」

美雪は昭子にメモを渡した。その日は何も考えられなかった昭子だったが一週間もすると落ち着きを取り戻し、美雪が何を話したかったのか気になってメモに書いてある番号へ電話した。